高齢者の介護には多くの介護職が家族をサポートすることになりますが、利用者の権利や介護職の法的立場を理解することが必要です。そのためにも、もし事故が起きた時の責任の所在などを介護に関わる法律から分析してみましょう。
利用者から介助を断ってきたら?
介護事業者はサービスを提供するにあたって、利用者の心身状態を把握した上で施設を利用するに伴っての事故を防止する安全配慮義務を負います。
この様な事を踏まえた上で、例えば認知症を患っていないデイサービスの利用者が歩行介助を断って一人でトイレに行った際に転倒し、ケガを負って後遺症が残ってしまった場合には誰に責任があるのでしょう。
・介助しないことによる危険性の判断が必要
利用者の身体状態や歩行のレベル、主治医の指示や過去の転倒事故などで、一人で歩行すれば転倒する危険性がどのくらい高いかを見極めなくてはなりません。
もし利用者が歩行で転倒する危険性が極めて高い状態だと判断できるのなら、安全配慮義務の一環として歩行介護の義務があったと言え、介護職員がこれを怠ったと認められる場合は介護事業者が損害賠償責任を負うことになります。
・ただし利用者の状況次第で判断は異なる
実際には利用者が過去に転倒してケガを負ったことがあるかどうか、筋力の低下やマヒの状況、歩行の程度や主治医の指示などを総合的に考慮しながら安全配慮義務について判断がされます。
介助を断られても介護職員に介助義務は残る?
しかし利用者から歩行介助を断って来たのに、介護職員に歩行介助義務があるのか疑問を抱く人もいるでしょう。
利用者が認知症でなければ判断能力に問題はないので、歩行介助を拒否してきたのなら介護職員に歩行介助義務はないとも考えられなくはありません。
しかし介護事業者は介護を専門とするので、歩行介助をしなければどのような危険があるのか認識すべきなので、介助を拒否されたから介助義務を免れる事が出来る訳ではない事を理解しておきましょう。
介助の必要性を利用者に理解させることが必要
介護を拒否された場合には、利用者に介護を受けなければどのような危険があるのか、回避する必要性を理解させるように説明と説得が必要です。それでも介護を拒絶してくるようなケース以外は介護義務を免れることはないと言えるでしょう。
過去の事例は?
過去の裁判例では介護事業者の過失のほうが大きいと判断され、利用者(要介護者)の過失も3割と判断されています。
ただし利用者が認知症の場合には判断能力が欠いている状態なので、利用者に過失を問うことはできないと考えられます。
介助を断られたら家族にも協力を求めることが必要
利用者から介助を拒否してきたとしても介護事業者は損害賠償責任を免れるわけではありません。しかし介助が必要なのに介護を拒否した利用者にも過失があると考えられます。
後に裁判などになった時には、利用者に介助の必要性の説明や説得を尽くしたことを立証することは難しいとも考えられますので、利用者が介護職員の介護を拒否する場合には、家族から言い聞かせてもらうなど協力も必要となるでしょう。