防衛費の拡充について、自由民主党内で意見が分かれて議論が交わされることが増えています。
その財源を国債で賄うべきという意見に対して、増税によって賄うことを容認する意見もあります。
しかし、防衛費は増税によって賄うべきではありません。
その理由は、一体何でしょうか?
なぜ、増税によって賄うべきではないのか
自由民主党内で、防衛費の拡充を増税で賄うべきではないと述べているのは、西田昌司参議院議員です。
西田議員は、国債の発行を財源とすればいいと主張しているのですが、それにはMMTの影響があると考えられています。
MMTは現代貨幣理論のことで、それによると政府支出を増やすためには増税が必要ではないとされているのですが、問題はMMTを根拠とする話を経済学者や政治家が素直に聞いてくれない、という点です。
実は、MMTは主流派経済学からは異端視されている理論なので、その意見は受け入れないという考えも多いのです。
それでも、クナップやラーナー、ケインズ、シュンペーターなどの議論を原型としているMMTは、数えきれないほど批判を受けてもそれに耐えてきた強固な理論なのです。
批判されるべきは、主流派でなければ論ずるに値しないと決めつけてしまう経済学者や政治家などの考え方であり、そのような閉鎖的で反知性的、大勢順応的な姿勢は改めるべきでしょう。
その姿勢が、ここ30年に及ぶ日本経済の停滞・衰退の根本的原因となっている可能性は非常に高いと思われます。
このままでは、歴史的な大転換期に直面する厳しい今を生き抜くことが難しくなってしまうでしょう。
また、たとえMMTに対して聞く耳を持たなかったとしても、増税が政府支出を増やすために必要ではないという理論は他にもあるのです。
その1つがMonetary Circuit Theory、貨幣循環理論です。
貨幣というのは特殊な負債の一形式であり、借用書だというのが信用貨幣論としていわれる正しい貨幣概念であり、民間銀行は貨幣を創造できることとなります。
民間銀行が貸し出しをすることで信用創造が行われ、預金(負債)という預金通貨に類する貨幣が生じています。
一般的に、民間銀行では家庭や企業などのお金を預かり、それを別の方に貸し付けていると思われているのですが、実は誤解であり、実際には企業等に貸し付けることで預金という通貨を生み出しているのです。
例えば、5,000万円を借りたいという企業があった場合、銀行はその企業に直接お金を渡すのではなく、預金通帳に5,000万円と記入するだけで5,000万円の預金通貨が生じることとなるのです。
そして、企業が十分な利益を得て借りた5,000万円を返済することで、預金通貨は消滅することとなります。
民間銀行が貸し出すことで貨幣は創造され、返済によって破壊されることとなるのです。
銀行からの貸し出しによって貨幣が創造されるため、創造するには企業の資金需要が必要ということになります。
つまり、究極的には企業の需要によって貨幣が創造されるということになります。
企業から資金需要があった場合、銀行ではその企業に返済能力があるか与信審査を行い、返済能力がなければいくら希望されても貸し出しません。
しかし、返済能力がある限りはいつでも貸し出し、貨幣を供給できるのです。
貨幣が想像される出発点に企業の需要があるのは確かで、その需要に応じて民間銀行が貸し出しを行って貨幣が創造されることとなり、民間経済の中でその貨幣が使われて循環することで企業が収入を得て貨幣を獲得し、銀行に債務の返済を行って消滅していきます。
この貨幣循環が、資本主義の基本原理となっているのです。
増税は財源にならない
企業の需要は貨幣の創造となり、貨幣が循環することとなるのですが、政府からの需要の場合はどうなるのでしょうか?
実は、政府からの需要であってもこの仕組みは変わらないのです。
政府からの需要がある場合、貸し出しは中央銀行が行います。
その場合でも貨幣が創造されることとなり、政府はその貨幣を支出して民間部門へと供給し、課税によって民間企業から貨幣を徴収して中央銀行に返済して、貨幣が破壊されます。
企業の需要と政府の需要の違いは、貸し出すのが民間銀行か中央銀行か、支出に対する収入が徴税かどうかという違いだけで、主に企業から収入を得るという点も変わらず、返済することで貨幣が破壊されるという点も変わりません。
大きな違いは、政府への貸し出しであれば返済能力が確実であり、審査が不要で上限を定める必要がないという点です。
中央銀行制度があることで、政府は徴税を元手にする必要なく中央銀行が創造した貨幣を得て支出を行うことが可能となるのです。
また、貨幣とは負債のことであり、貸し出しによって創造されて返済によって破壊されるため、政府が国債を発行して債務を負うことは貨幣の創造となり、税収によって債務を返済することは貨幣の破壊となるのです。
しかし、今回の棒閉扉を巡る財源についての議論では、増税が検討されています。
貨幣循環において防衛支出という政府の需要は貨幣を生み出す源泉となるのですが、税は貨幣を生み出すことにはつながらないため、安定財源とは言えないのです。
資本主義の仕組みから言えば、防衛費の安定財源となるのは防衛需要です。
銀行制度がない資本主義以前の時代であれば、封建領主が防衛支出の財源を確保するために増税を行い、人民が持つ財産から防衛費をねん出するしかありませんでした。
銀行制度が完備されている資本主義の時代では、政府が防衛支出という需要に応じて貨幣を新たに創造することが可能となっているのです。
つまり、増税や歳出削減による防衛費の確保という考え方は、前時代的な発想に基づいたものと言えます。
自民党のある衆議院議員は、防衛費を増税によって確保することを容認する姿勢を示しています。
こういった前時代的な考え方は改め、今一度資本主義や貨幣について正しく理解することが、政治家として果たすべき最低限の責任と言えるのではないでしょうか?
まとめ
不穏な世界情勢を受け、日本でも防衛力の強化を望む声が高まり防衛費の増額が考えられているのですが、その財源については国債と増税どちらにするべきか、議論が行われています。
しかし、資本主義における貨幣循環理論を理解せずに議論しているとは思えない議論をしているため、そのままでは適した結論が出るとは思えません。
まずは貨幣創造の仕組みについて正しく理解してから、話し合いをするべきです。