長時間労働やストレスなどが原因で、心身ともに健康だった労働者が不調を訴えた場合には、その原因を取り除き健康が回復するように支援することはもちろん、そうならないように予防するための策を講じる必要があります。
安全配慮義務とは?
安全配慮義務は労働者を業務に従事させるにあたって、労働者の生命や健康を危険から守るために使用者が配慮する義務のことです。
これまでは労働環境の整備や労働者のケガの防止を中心に考えられていましたが、心身のバランスを崩して死に至るといったケースも増えていることから健康を確保することも必要になりました。
安全配慮義務の内容
安全配慮義務の内容は一律に定まっておらず、それぞれ事情によって異なります。
施設設備の管理を十全に行う義務として、例えば安全装置の設や機械の整備点検を行う義務、また防犯設備を施す義務などが挙げられます。
人的組織についての管理については、安全教育を十分に行い不安全行為に対する注意と指導を適切に行う義務、そして有資格者や監視員配置の義務などがあります。
また、労働者が過重労働になっていないか労働時間を把握しておくことも義務の1つとして考えられます。
安全配慮義務に違反した場合
使用者が安全配慮義務に違反したことで労働者の心身に問題が生じた場合には、使用者は損害賠償責任を負うことになります。
ただし安全配慮義務は無制限に認められるものではありません。まだ起こらない間に先を見通して知りえたことで回避義務が認められた場合に損害賠償責任を負うことになります。
損害賠償額は多額になる可能性は高い
使用者に安全配慮義務違反があると判断された場合で、損害との間に因果関係が認められた場合には多額の損害賠償金を支払うことになる可能性があります。
過去の裁判でも数千万円~数億円といった賠償責任を負担することになったケースもあります。
なぜ賠償額が大きくなるのか?
安全配慮義務による損害賠償額が多額になる理由として、損害賠償の対象になる損害費目には様々なものがあるからと言えます。
例えば病院の治療費や入院雑費、通院するための交通費、休業損害や後遺障害による逸失利益、慰謝料、弁護士費用などが上げられます。
なお、安全配慮義務違反の損害賠償請求権の時効は10年になっています。
直接的に雇用関係がない場合は?
安全配慮義務は単に労働契約上の義務ではなく、労働契約関係にない人との間にも認められる場合があります。
直接的な雇用関係がない請負や派遣などの労働者に対しても、安全配慮義務を認められると考えられます。
使用者だけでなく業務上の指揮監督者も注意を
安全配慮義務を負うのは使用者だけとは限りません。規模がそれなりに大きくなっていけば権限の委譲が行われ、業務上の指揮監督を行う人をもうけていることが一般的です。
この場合、その指揮監督を行う人が安全配慮義務を負う可能性もあります。取締役や部長など役職者、作業現場監督者など、権限と責任などに応じて複数者が使用者とみなされる可能性もありますので注意しましょう。