例えば商品の配送ミスや破損、誤発注、誤入力、さらにはシステムプログラムのミスでのトラブルなど、取引の中には色々なリスクは付きものと言えます。
経営者も従業員も理解しているつもりでも、実際起きた場合には責任の所在を自分以外に求めたくなるものでしょう。
例えば経営者なら、これだけ厳しい経営環境でも給料を払っているのだから、損害は分割して補填するのが当然だと思うかもしれませんし、従業員の立場としては経営が順調であれば利益は会社に入るわけなので、会社も損害を負担するべきだと思うかもしれません。
法律上の規定は?
労働関係法令の定めでは、労働基準法第16条に「賠償予定の禁止」という規定があり、使用者は労働契約不履行について違約金の定めや損害賠償額の予定を行う契約を禁止しています。
ただしこれは賠償額を予定することに対する禁止で、発生した損害賠償請求を禁止しているわけではありません。
労働契約法第3条第4項でも、使用者と労働者は労働契約を遵守し、誠実に権利を行使して義務を履行する定めがされていますが、直接労使間の損害賠償請求に関して定めているわけではないのです。
そのため従業員の行為が問題でトラブルに繋がった場合には、その行為が民法709条の「不法行為」、もしくは民法第415条の「債務不履行」に該当するかで判断することになるでしょう。
・民法第415条(債務不履行)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
・民法第709条(不法行為)
故意又は過失によって、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
実際の判例では?
この2つの条文では、従業員の業務上のミスが債務者の債務不履行に該当する行為であり、さらに不法行為に該当する会社の利益を侵害する行為だと考えられます。しかし全ての責任を従業員が負うことになるわけではありません。
実際の裁判では、事業の規模や性格、施設状況、従業員の業務内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様や予防、損失分散などについて使用者の配慮の程度など、様々な事情に照らし合わせて損害の公平な分担がされます。
負担割合に目安はない
ケースにもよりますが、賠償請求された4分の1分を従業員負担というような形の判断が示されているようです。
過失割合や状況によって高い割合で従業員の割合が認められるケースもありますので、一概にこのくらいという目安はありませんが、軽過失事例だと0~30%程度の賠償責任が認められる判例が多いようです。
賠償請求された時の責任
これらのことも踏まえた上で、顧客から賠償請求があった際の責任の所在について理解しておく必要があります。
例え従業員が行った行為による賠償請求でも、企業にも責任を負う必要があることは十分理解しておきましょう。