現在の日本経済は、物価上昇率が低い状態が続き、経済活動も物価が上がらないことを前提としています。
この現状を打破して経済の完全復活を目指す方法として、高圧経済が考えられています。
しかし、高圧経済とは一体どのようなものなのでしょうか?
具体的にどのようなものか、解説します。
高圧経済とは?
経済は、需要と供給の関係性で変化していきます。
供給に対して需要が不足しているとデフレが起こり、供給を需要が上回るとインフレが起こります。
高圧経済というのは、財政政策や金融政策によって景気を過熱し、それをある程度の期間継続することです。
そうなると、需要が供給を上回ることになり、それに遅れて生産が増えていくことになります。
これが注目を浴びたのは2016年、当時のFRB議長だった現米財務長官のイエレン氏の発言でした。
負の履歴効果が存在するなら、総需要を長期的に政策で刺激していく高圧経済を維持することで、正の履歴効果が起こるようになる可能性がある、と言っていたのです。
その発言の意味を考えると、景気が回復することだけを目的とするのではなく、回復した後も景気を刺激する政策を講じて設備投資や雇用などを強く促していこう、というものです。
経済ショックに見舞われた場合、人々の記憶は苦いものになります。
この景気への刺激を実現することで、その記憶を払しょくし前向きに支出できるよう促していく必要がある、という考えなのです。
米国で実施されている経済対策には、これの実現という理念が後ろに見えています。
コロナ禍において、米国が行った景気対策の結果は、1年半で民間非金融部門にあるマネーストックが3割以上も増加するというかなり巨額と言える規模になり、マクロの家計所得は劇的に増加しています。
一見すると、やりすぎのように思えるかもしれません。
しかし、このような結果を残すことができたため、経済対策は負の履歴効果を回避することに大きな貢献があった、と言えるでしょう。
高圧経済の考え方の変化
これまで、この方法は短期的なメリットがあるものの、長期的に見ると大きな損失が生じることになるため、政策としては望ましくないと考えられていました。
しかし、その考え方に変化が生じているのです。
近年、リーマンショックやコロナ禍などを原因とする不況が起こっているのですが、そういった状況下においては従来の考え方の前提が崩れるため、政策当局が取るべき政策方針が高圧経済の実現だ、という見方が生じているのです。
その代表例が、先程紹介した米国の元FRB議長だったイエレン氏の発言です。
他にも、大学教授のレポートなどで言及している例もあります。
これまでの考え方と、新しい考え方のそれぞれのポイントについて、考えてみましょう。
これまでの考え方では、まず長期的な経済指標の存在がありました。
GDP成長率や失業率などの定常水準の存在があり、長期的に見たGDP成長率や失業率などの水準は生産性の成長、労働市場の構造によって影響を受けるものとされています。
一方で、不況や好況によって生じる影響は短期的なものでしかないため、短期的に景気が変動した場合は長期的な水準から乖離する可能性はあるものの、その変動が終わった時は長期的な水準の近くへと元のように戻る、と想定されているのです。
また、政策介入は短期的な効果しかない、と思われています。
従来のマクロ経済では、財政や金融に関する政策は、長期的な水準と比較して一時的にGDP成長率の向上が見込めるのですが、長期的な水準には特に影響がない、と理解されていたのです。
政策介入によって、インフレリスクが高まるとも考えられています。
金融緩和や財政出動といった政策介入があると、一定期間にわたってGDP成長率が高まり、失業率も低下します。
その代わり、インフレが発生することが想定されるのです。
激しいインフレが一度生じると、それをコントロールするのは困難だというのが従来の考え方です。
インフレ率の上昇に伴い、企業や労働者のインフレ予想も引き上げられてしまい、企業はそれに伴い値上げをして労働者は賃金の上昇を要求するのです。
そうなると、インフレはさらに加速していくこととなるのです。
そのような自己実現的構造があると考えられているので、インフレをある程度操作するためには失業率をわざと高くするなどの対応が必要になってしまいます。
最終的には、最初に得られたメリットである失業率の低下やGDP成長率の向上などを相殺することになるので、継続的に政策による経済の過熱は望ましくない、というのが標準的な理解となっています。
政府や中央銀行は、GDP成長率を自然水準よりも永続的に高くすることを目的とせずに、その周りで安定させるべき、とも考えられています。
従来の考え方では、高圧経済を実現したとしてもメリットだけではなく、それを相殺するほどのデメリットもあると考えられていたのです。
しかし、新しい考え方ではまず、リーマンショックの影響で起こる悪影響が長期にわたって続いているため、経済にマイナスの影響を与えていると推測しています。
そのせいで、職探しをやめてしまう人や、パートタイムで働く人が増加しているのです。
また、現在は政策介入をしてもインフレは起こりにくいと考えられています。
インフレ予想は数十年間安定していて、インフレ率の変化への反応を弱めているとみられているので、継続的な景気刺激がきっかけで起こることはない、と想定されています。
また、政府が介入して継続的な景気刺激策などが中長期的な影響をもたらす、とも考えられています。
継続的に景気が刺激されると、新たに生産性や賃金が高い雇用が生み出されることになり、労働者も全体的により良い条件の仕事へと移っていくと想定されていて、その結果中長期的な不況の悪影響を緩和することができるのです。
まとめ
高圧経済は、政策などによって景気を刺激することで、景気を上向きにしようというものです。
しかし、これまでであればその景気が長持ちしない、インフレの発生につながるといった点から、あまりいいとは言えない手段だと考えられていました。
ところが、現在は考え方も変わり、現状のような景気であれば効果的なのではないか、と言われているのです。
どのようなものかを理解して、実現したときは対応しましょう。