預貯金の引き出しも不動産の売却も難しい、経営者の認知症対策

その他

経営者が認知症になると、実務面でも様々な問題が生じます。
しかし、影響があるのは実務だけに留まらず、会社の経営や家族の生活にも影響が出ることがあるのです。
認知症が重度になると、預貯金を引き出すことも不動産の売却も難しくなってしまうでしょう。
経営者の認知症対策について、解説します。

成年後見制度は経営者の認知症対策になる?

近年、経営者の高齢化が進む中、認知症になる経営者も増えています。
認知症は、65歳以上の7人に1人以上の割合でかかると言われているため、65歳以上であればいつ発症してもおかしくはないのです。

しかし、経営者が認知症になってしまえば、会社の経営に支障が出ることも多いでしょう。
軽度の認知症なら周囲でカバーできるのですが、重度の認知症になって判断能力が低下した場合は、契約などを結ぶことができなくなり、口座も凍結されてしまうかもしれません。

成年後見制度とは?

成年後見制度は、認知症などで判断能力が喪失した場合に裁判所に申し立て、後見人を決める制度です。
申し立ては本人が行うのですが、本人が無理な場合は家族などが代理で行うこともできます。

裁判所が、弁護士や社会福祉士などの専門家の中から後見人を選任します。
後見人には、本人の状態に合わせて3つの種類があります。
最も多くの権利を代行できるのが後見であり、後見より権限が少なくなるのが保佐、さらに権限が少ないのが補助です。

任意後見制度

自分であらかじめ後見人を選んでおく、任意後見制度という方法もあります。
任意後見制度の場合、だれに依頼するのかは自分で決めることができ、選定する際は契約を結んでおきます。

契約する際に、何を任せるのかを決定しておきます。
全面的に任せるという場合もあれば、一部の権限だけを任せることもあるでしょう。
経営者の場合は、会社の経営にかかわる内容も代行してもらうことがあります。

経営者が認知症になった場合、最も大きな問題となるのが議決権です。
中小企業の場合、経営者が過半数の株を持っていることも少なくありません。
議決権も経営者にあるのですが、正常な判断を下せない場合は経営に関する決定ができなくなるでしょう。

決断ができないのであれば、ほかの人に株を譲ってしまえばいいと考えるかもしれませんが、株の取引には制限がかかるので、家族も勝手に取引することはできないケースが多いのです。

譲渡できないせいで、会社の経営がピンチになってしまう事態は少なくありません。
任意後見人の契約をあらかじめ結んでおけば、経営者が認知症になった時に会社経営が危機を迎えるという事態を防ぐことができるでしょう。

任意後見制度を利用するには、任意後見契約を結んで契約内容を公正証書にしておき、認知症を発症して意思能力に欠けるようになったときに、裁判所に申し立てて裁判所が任意後見監督人を選任することで、任意後見人の権限が有効になります。

任意後見人の場合は、弁護士などの専門家に限らず、家族もなることができます。
後見人には報酬が支払われるのですが、金額についても任意に決定できます。
様々なことを代行してもらうことで、経営にも大きな影響を及ぼすことが無くなるでしょう。

後見人を定めることで、経営者が認知症になった場合でも、契約の代理を行うことができるため、最悪の事態は避けられるでしょう。
しかし、後見人ができることにはかなり制限があり、役員の欠格事由にもなるため、経営から退くことになってしまいます。

家族信託を利用しよう

経営者が認知症になった時の対策として、後見制度を考える人は多いでしょう。
しかし、後見制度では経営を続けるのが難しいかもしれません。
経営を続けるのであれば、家族信託を利用することも考えましょう。

家族信託とは?

家族信託というのは、家族間で信託契約を結び、家族が財産を管理でき利用にするというものです。
契約の際に、財産の管理や処分するものなどを、話し合っておくことができます。

家族信託は信託契約なので、認知症を発症してから契約することはできません。
契約するのは、認知症になる前でなければならないのです。
いざという時に備えて、契約しておきましょう。

家族信託の仕組み

家族信託は、委託者と受託者、受益者の3者が必要になります。
委託者は、財産の管理を任せる認知症に備える人、受託者は信託財産の名義人になって財産の管理や処分などを行う人、受益者は信託によって生じた利益を得る財産権を持つ人です。

家族信託は、例えば受託者が自己破産した場合でも、信託財産には影響がありません。
また、不動産を共有した場合に起こるトラブルについても防止できます。
受益者には、自分だけではなくほかの人を指定することも可能です。

家族信託の注意点

家族信託は非常に便利な方法に思えますが、いくつかのデメリットに注意しましょう。
まず、比較的新しい方法なので専門家が少なく、見つけづらいという点があります。
弁護士や司法書士でも、未経験でノウハウがないという人もいるでしょう。

また、受託者は弁護士や司法書士、税理士など、士業の人はなることができません。
家族信託の受託者は、あくまでも家族の中から選ばれるのです。
いくら専門家の方が安心だとしても、きちんと家族から選んでください。

信託財産の手続きには、手間がかかります。
遺言より柔軟に財産を継承できますが、話し合って契約書を作成し、財産の名義を変更して財産管理のための口座を新たに開設する必要があるので、面倒に思う人も多いでしょう。

受託者は、個人の意思に長い間拘束されることになってしまいます。
委託者が亡くなってから、財産を取り巻く状況に大きな変化が訪れた場合、財産の管理方法を変更したくてもできないというケースも多いのです。

認知症を発症していても、判断能力が十分にあると認められれば、家族信託の契約はできます。
すでに認知症になったからとあきらめず、まずは医師の診断を受けましょう。

まとめ

経営者が認知症になると、会社の経営もできなくなることがあります。
きちんと引き継ぎできるよう準備しておかなければ、預貯金を引き出すことも不動産を売却することも困難になってしまうでしょう。
認知症になった時に備えるのであれば、後見制度を利用するという方法もありますが、家族信託を利用するともっと柔軟に対応できます。
家族信託を利用するには、認知症の発症前に契約しておく必要があります。