2024年2月に、台湾にある半導体世界最大手のメーカー「TSMC」が、熊本県菊陽町に第1工場を開所しました。
開所される前から、地元は半導体バブルに沸いているという報道があったのですが、果たしてTSMC熊本工場は半導体バブルを生みだすのでしょうか?
TSMC熊本工場の影響について、解説します。
工場の開業前と開業当初
半導体が世界的に不足している中で、熊本に台湾のTSMCが半導体の製造工場を開所することになり、熊本県だけではなく日本中が注目しました。
工場は、まず第1工場が2024年2月に開所しています。
投資された金額は1兆円以上にも及び、日本政府からも最大で4760億円が補助されています。
工場建設に伴い、建設される熊本県菊陽町と周辺自治体には、多くの企業が進出を希望しました。
地価も急上昇し、まさに半導体バブルと言える状況を生み出し、アップルのCEOも菊陽町にあるソニーグループの工場を訪問しました。
熊本県知事も、台湾のTSMC本社を訪問しています。
菊陽町は、昭和には1~2万人規模の町だったのですが、半導体関連の企業誘致や商業施設の整備などで平成以降は人口が増加していて、現在は4万人以上が暮らしています。
菊陽町をはじめ、熊本県は半導体生産に欠かせない良質な地下水が豊富で、県の条例で管理が徹底していることから、注目が集まっているのです。
また、菊陽町は空港から約10分程度の距離とアクセス良好で、熊本市までも車で100分ほどです。
台湾への国際コンテナ定期航路がある八代港までも、車で1時間ほどと輸送面でも優れた立地となっています。
もちろん、首都圏と比べると土地の取得コストもはるかに低いため、多くの企業が熊本県に進出してきました。
国内企業でも、ソニーグループや富士フィルム、SUS、ニチアスなどの半導体関連企業の工場や事務所が菊陽町にあります。
TSMCの進出が決まったことで、2022年の地価は工業地が30%以上も上昇し、全国一となりました。
住宅地や商業地も、10%前後の上昇となっています。
TSMCの効果で、全国各地から問い合わせや相談が殺到し、熊本銀行にも土地を確保したいという相談が、国内外の半導体企業を中心に約200社から寄せられています。
しかし、菊陽町にはすでに提供できる土地がほとんど残っていないという問題があるのです。
町内の土地には農業振興地として開発が厳しく制限されているところが多いため、いくら希望されても土地の確保ができないのです。
TSMCの後は、どの企業も進出を決定することができていません。
菊陽町に進出できない状況を受け、周囲の自治体では誘致の動きが活発になりました。
八代市でも、新八代駅周辺の機能を高めて企業誘致のための整備を進めると市長が語り、整備推進本部も設置されました。
熊本県でも、半導体産業集積強化推進本部を設置していて、受け入れ環境の整備に取り組んでいます。
菊陽町では、工場で働く人を見込んだ住宅需要を見込み確保するよう取り組み、交通インフラの整備も進められました。
地元住民はどう考えている?
半導体バブルと言われる状況に沸く熊本県ですが、中心となっている菊陽町の住民にとっては素直に喜べない点もあるようです。
住民からは、周囲の競争に対するため息も出ています。
菊陽町にできた巨大な工場は、周囲にキャベツ畑が広がる自然の中にあります。
高台にある工場は近くの駅からもはっきりと見ることができ、夜になるとライトアップされて非常に際立って見えます。
九州フィナンシャルグループの試算によると、地価高騰、雇用創出、経済波及効果などの恩恵の総計は、2022年からの10年間で7兆円近くにもなります。
大きな経済効果で、半導体バブルと言われても違和感はないでしょう。
しかし、住民の反応は冷静です。
工場の最寄り駅は、通勤と退勤で毎日朝夕と大混雑しているのですが、駅は無人で周囲にもお店がないため、基本的にただ通り過ぎるだけとなっています。
駅周辺に今後家が100軒建てられるという話も出ていますが、まだお店ができて人通りも増えるのは先のこととなるでしょう。
台湾から観光のつもりで来た人も、飲食店が見つからず困っている様子が見られたようです。
工場近くに何店舗かあるコンビニでは、特需が生まれて連日大混雑となっています。
朝と昼には工場で働く外国のお客がひっきりなしに訪れ、1日に1店舗あたり1000人来ているとも言われています。
しかし、働く人の体感では1500人ほど来ているように感じるほどで、食べ物も午後3時に補充されるまでに品薄となることも多いようです。
2024年末に第2工場の建設が始まり、2027年末までには稼働を開始する予定となっているため、今後さらに増えることも考えられるでしょう。
菊陽町と隣接している大津町でも、新築の高層マンションが4棟建設されています。
不動産業や建設業にとっては、まさしくバブルと言えるでしょう。
また、土地や畑を持っている地主にとってもバブルですが、他の住人にとってはあまり恩恵を感じられないかもしれません。
また、問題となっているのが渋滞問題です。
熊本市内から工場までの道は限られているため、朝と夕方は大渋滞が起こっていて、第1工場が建設されている時は10キロの道のりで1時間半もかかることがあったそうです。
地元に人が増え、景気が良くなったように感じるのですが、交通インフラや飲食店、商業施設などの受け入れ態勢が整っていないため、好景気を正しく生かし切れていないのが現状です。
今後、飲食店をはじめ多くの店舗が増えていくことが期待されますが、前述したように菊陽町にはあまり活用できる土地がないため、増えるとしても限度があります。
どちらかと言えば、菊陽町内よりも隣接している大津町など、周辺地域に増えることが期待されるかもしれません。
まとめ
世界大手の半導体メーカーであるTSMCが工場を建設した熊本県菊陽町は、半導体バブルに沸いている町とされています。
確かに、工場が建設されたことで訪れる人も増え、土地の価格も大きく上昇しました。
また、隣接する大津町では高層マンションが建設されるなど、確かに景気が上昇していることが感じられます。
しかし、人が増えたことで多くの問題が生じていることから、受け入れ態勢は不十分だと言えるでしょう。