兵庫県の斎藤元彦知事がパワハラなどの疑惑で告発された際、県議会が百条委員会を設置したのですが、百条委員会というのは何なのかをご存じでしょうか?
今までも何度か設置されたことがあるため聞いたことがある人もいると思いますが、具体的は知らない人も多いでしょう。
どのような委員会なのか、解説します。
百条委員会とは?
県議会などが、何らかの調査などが必要となったときに百条委員会(ひゃくじょういいんかい)というものを設置することがあります。
百条委員会というのは、都道府県及び市町村の事務に関する調査権を規定した地方自治法第100条に基づき、地方議会が議決により設置する特別委員会の一つです。
なお、特別委員会の設置根拠は地方自治法第100条ではなく、同法第109条に定められています。
普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の事務に関する調査を行い、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができるのです。
第100条第1項に定められているもので、調査に関する権限のことを議会の百条調査権ともいいます。
百条調査権の発動に際しては、第100条第3項に証言・若しくは資料提出拒否に対し禁錮刑を含む罰則が定められているのです。
日本国憲法第62条に定められている、国会における国政調査権に相当する、県議会における権利といえます。
百条調査権は、議会の議決にあたっての補助的権限、執行機関に対する監視機能、世論を喚起する作用等を有しているのです。
調査の対象となるのは、次に定められている事務を除いた当該の普通地方公共団体の事務となります。
例外となるのは、まず組織に関連する事務や庶務を除いた労働委員会・収用委員会の権限に属する事務である自由事務です。
また、国の安全を害するおそれがある事項に関する事務を行う法定受託事務も対象で、当該国の安全を害するおそれがある部分に限って除外となります。
当該個人の秘密を害することとなる部分に限り、個人の秘密を害することとなる事項に関する事務も除外されるでしょう。
調査権を行使するにあたって、調査権の行使の主体は地方自治体の議会となるため、調査権を行使するには議決が必要となります。
議会の委員会は本来この調査権の行使を認められてはいないのですが、例外として調査権を行使できるケースもあります。
委員会が調査権を行使できるのは、議会が特定の事件を指定したうえで常任委員会又は特別委員会に対して調査を委任したときです。
委員会が調査権を行使できるケースにおいて、調査を委任された委員会のことを、地方自治法第100条に則った委員会として、百条委員会と呼びます。
ちなみに、委員会には一般的包括的に権限を委任することはできないため、注意が必要です。
調査に当たっては、国会の国政調査権と同様に罰則を設けることで調査権の実効性が担保されています。
出頭又は記録の提出の請求を受けた選挙人その他の関係人は、正当の理由がなければ議会に出頭するか記録を提出しなくてはならないのです。
しかし、正当な理由がないのに出頭もせず記録を提出しないとき、又は証言を拒んだときは、6箇月以下の禁錮又は10万円以下の罰金に処せられます。
宣誓した関係人が虚偽の陳述をしたというケースでは、3箇月以上5年以下の禁錮に処せられることになるのです。
また、議会が選挙人その他の関係人が第3項又は第7項の罪を犯したものと認めるときは、告発する義務があります。
ただし、虚偽の陳述をした選挙人その他の関係人が、議会の調査が終了した旨の議決がある前に自白したときは、告発しないことも可能です。
地方自治法第100条第9項に定められている内容であり、原則として議会に対して告発を義務づけています。
近年の百条委員会の事例
百条委員会は、自治体の事務に疑惑がある場合、あるいは不祥事の疑いがある場合の調査などを目的として設置されるものです。
議会の議決に基づいて、法律に規定されている通りに調査を実施することを決定することとなります。
地方議会においては、国会の国政調査権と同じような強い権限を持っているため、関係者には出頭、証言、記録の提出などを請求できるのです。
百条委員会では、議員が委員として動き人数などは自治体の条例で定められている規定に従って決まります。
議会事務局などの自治体職員は委員になるわけではないのですが、委員のサポート役として動くことになるのです。
関係者が虚偽の証言をした場合や正当な理由がないのに証言を拒否したり記録を提出しなかったりした場合には、罰則が定められています。
もし、該当する行為があった場合は、議会に告発するかどうかが委ねられているのではなく、告発しなくてならないのです。
第100条に基づいて調査が行われた件は、2007年から2022年までの間で281件あり、58件では虚偽の証言や証言の拒否などの疑いがあるという告発がありました。
百条委員会が追及したことで、首長の進退を決めたという事例もあるほど、百条委員会の影響は強いのです。
近年でいえば、2013年に東京都で、猪瀬直樹知事が医療グループ「徳洲会」側から5000万円を受け取ったという問題で都議会が百条委員会を設置する方針を決定しました。
しかし、結局は設置される前に猪瀬知事が辞職することが決まったため、設置は中止されることになったのです。
2017年には、東京都で築地市場の移転先が豊洲市場となった経緯について検証するために、都議会が設置しました。
百条委員会では24人の証人喚問を行って、浜渦武生元副知事らの証言を偽証と認定したのです。
2019年から2020年にかけては、堺市で竹山修身前市長の政治資金問題に関して、市議会が設置しました。
竹山氏は証言を拒否するなどして、百条委員会は「疑問点は解消されなかった」などとする報告書をまとめることになったのです。
2020年から2021年にかけて、大阪府池田市で富田祐樹市長が市役所に私物の家庭用サウナを持ち込んでいた問題などで、市議会が設置しています。
調査した結果から、富田祐樹市長に対しては不信任決議が相当とする報告書が提出されたのです。
まとめ
百条委員会は、地方自治法第100条に基づいて地方議会が設置する、不祥事などの調査を行うための委員会です。
都道府県及び市町村の事務に関する調査権を有していて、関係者に証言や資料の提出を請求することができ、正当な理由なく拒否された場合は罰則を与えることもできます。
近年では、東京都や堺市、大阪府などで百条委員会が設置され、知事や市長の問題について調査した実績があるのです。