医療の現場/地方の医師不足

現在地方の中核自治体病院が次々と危機に陥っている状況であると言われていますが、その主な原因となっているのは医師不足です。
医師不足でドミノ倒しのように次々と深刻な事態に陥る病院の状況を改善させるために、政府は医学部定員を増やすことや、地域枠を設け地域勤務を義務づけるといった策を講じていますがその効果はまだ出ていません。


国が講じる対策は?
厚生労働省の検討会では、このままでは地域医療が崩壊してしまうことを危惧し、医師に地域勤務を半ば強制的に課すという案も浮上しています。
年内には対策をまとめる方針ではあるものの、強制的に地域勤務を強いられることに反発を抱く医師も多いでしょう。
どのような科や病院で医師不足?
長時間労働や低賃金といった劣悪な労働条件の科や、訴訟に発展することが多い科や病院などは医師が退職する傾向が強くなるようです。
例えば救命救急、外科、周産期、小児科、そして地方の自治体病院などがそれに該当し、他にも患者からのクレームが多い科や診療体制が単独である場所も敬遠されがちです。
医師不足が起きる具体的な原因は次のとおりです。

・仕事にかかる時間が増えた
患者にとってリスクのある医療を提供する場合には、医師から患者に説明して承諾書を取得することが必要になったことや、電子カルテに入力するといった作業が必要になったことで、いずれも仕事にかかる時間が長くなりました。
さらに患者の権利意識が高まったことなどで説明そのものの時間も膨大になり、医療保険の普及で手続きに費やす時間も増えています。

・労働条件が改善されない
医師の長時間労働が当たり前になっているのは当直問題が解決されないからで、特に自治体立病院や大学病院でその傾向が強くなっています。私立大学だと無給医が現在でも存在している状態のようです。

・医療訴訟が増えた
救急や周産期、小児救急といった急変する疾患を扱う科や、診断治療方針を短時間で立てる必要がある科などは医療訴訟が起きやすいため、医師が敬遠しがちです。

・救急患者が増えた
これまでなら家庭で対処できた、幼児の発熱や軽症の外傷など軽傷の患者が救急外来に押し寄せるようになったことで、当直の医師の負担が大きくなっています。

・女性医師が増加した
女性医師が増えている反面、女性が自立して働ける十分な環境であると言えない状況です。結婚、妊娠、出産をきっかけに継続的に就労することは困難となり、退職に至ることが多くなっています。

・新臨床研修制度が開始された
平成16年に始まった新臨床研修制度によって大学医局に医師は入局しなくなり、大学は地域の派遣病院から医師を引き上げました。
それによって地域の医療を大学が担うことがなくなり、地方の医師不足という問題が起きています。
医大の定数が増えても医師不足に解消の兆しが見えないのは、医局のしばりがなくなったことで地域と診療科目別の偏在が起きたからだと言えるでしょう。
地方病院の現状を理解しておくこと
若い医師が希望する勤務先は、救急、当直、癌の3つが「ない」科です。先輩医師が辛い状況で働いていれば、後輩医師はその科を選択することはないでしょう。
現在は病院勤務医から開業医、そして自由診療開業医へと医師が流れるようになっており、さらに地域から都会にも流れていると言えますので、このことを十分に認識しておく必要があります。