近年、経営者の高齢化が進む中、後継者不足が問題となっています。
元々主流だった親族承継が減少し、事業承継は多様化しているのです。
現在は、どのような形で事業承継が行われているのでしょうか?
親族承継の減少と、多様化する事業承継について解説します。
親族承継はどのくらい減少している?
かつて、小中規模の事業者であれば、事業は親から子、もしくは親族へと承継される親族承継が当たり前でした。
しかし、近年では親族承継の割合がかなり減少しているのです。
中小企業庁のアンケート調査の結果を見ると、30年以上前の事業承継は小規模事業者の場合、83.4%が息子や娘が承継していて、それ以外の親族は10.1%、親族以外の役員や従業員は3.8%、社外の第三者が2.7%でした。
しかし、2000年から2010年にかけては、息子や嫁が61.3%、それ以外の親族が14.4%、親族以外の役員や従業員が13.8%、社外の第三者が10.5%と、かつては20分の1だった親族以外の第三者の承継が、4分の1まで増えているのです。
中規模企業の場合は、30年以上前の事業承継は息子や娘が83.0%、それ以外の親族は8.4%、親族以外の役員や従業員は4.85%、社外の第三者は3.9%と、90%以上が親族承継でした。
しかし、2000年から2010年にかけては息子や娘が承継する割合が43.1%とほぼ半減していて、息子や娘以外の親族が承継する割合は11.0%とやや増えたものの、親族以外の役員や従業員が24.6%、社外の第三者が21.4%と、半数近くが親族以外の承継となっています。
ちなみに、親族承継の内訳では8~9割が子どもへの承継で、5%前後が子どもの配偶者の承継、次いで配偶者、孫、兄弟姉妹、その他の親族となっています。
規模が小さいほど、子どもが承継する割合が高くなります。
なぜ、親族承継が減少しているのでしょうか?
その理由としてまず考えられるのが、少子化です。
第1次ベビーブームの頃は4を超えていた出生率も、1970年代の第2次ベビーブームの頃には2をやっと超える程度でした。
この第2次ベビーブームの世代が、現在後継者として事業を承継する立場にあります。
そのため、第1次ベビーブームの頃に生まれた経営者の後を継ぐ親族が、そもそもあまりいないというのが大きな理由です。
かつては後継者候補がたくさんいて、その中から優秀な人材を選ぶこともできました。
しかし、後継者が少なくなっている現在では、適性のある人物が候補にいるとも限りません。
たとえ事業を承継したいという人がいても、後継者として不向きだと判断されれば承継させるわけにはいきません。
価値観が多様化したことで、承継を望まない子どもが増えているのも候補が減少している理由の1つです。
何より、親族以外が事業を承継することや、M&Aが特に珍しいものではなくなったというのも、大きな理由です。
特に、以前は批判的な意見も多かったM&Aですが、今では当たり前のものとなっています。
親族承継には、他にも資金面での問題もあります。
事業承継には多額の費用がかかるため、その資金を後継者が用意できるかどうかも問題となるのです。
非上場企業では、一般的に株式や事業用の資産を後継者へと相続・贈与によって移転します。
買収する必要はないのですが、相続や贈与には税金がかかります。
相続税や贈与税は、最高税率が55%とかなり高い税率になっています。
これを会社側で負担するケースもあるのですが、そうなると資金が不足して事業を承継した後の会社経営に支障をきたす可能性もあります。
また、後継者がすべての株式を承継することができないケースもあります。
例えば、経営者が遺言書を残さずに死亡した場合、財産は親族にも相続されるため、株式や事業用資産も分散してしまうことになるのです。
後継者は、親族からその株式などを買い取る必要があるでしょう。
しかし、そのための資金が不足している場合はすべて買い取れないケースもあり、会社の経営の妨げとなってしまう可能性もあります。
不足している資金を銀行に融資してもらおうにも、まだ後継者の段階で銀行から融資を受けるというのは簡単なことではありません。
場合によっては、会社と銀行との信頼関係が悪化してしまう可能性もあるでしょう。
また、事業承継では会社そのものや資産だけではなく、負債なども引き継ぐことになります。
債務や個人保証、担保などがあると、会社が経営不振になってしまった時に個人資産まで差し押さえられてしまう可能性もあるのです。
多様化する事業承継
現在は、息子や娘を始めとした親族が事業を承継することが少なくなり、事業承継は多様化しています。
例えば、どのような事業承継の形があるのでしょうか?
親族ではなく役員や従業員が事業を承継する場合は、後継者が事業用資産や株式を買い取るというのが一般的です。
経営者は引退後の生活を考える必要があるので、親族以外に承継させるとリスクを伴うこととなります。
親族以外の承継は、借入金の個人保証や担保等を引き継ぐのが難しくなります。
個人保証を引き継ぐことができるほどの資産がない場合や、金融機関からの信用が足りない場合などがあり、資金が不足することもあり得るのです。
また、現在特に増えているのがM&Aによる事業承継です。
M&Aには株式交換や株式・事業譲渡、合併、会社分割などがあり、それぞれの会社に適した方法を選ぶことができます。
M&Aの場合、経営者は創業者利益を受け取ることができます。
また、譲渡先の企業が個人保証や担保なども引き継ぐことになるため、後顧の憂いを断つことができるのです。
親族承継が困難な場合は、M&Aによる第三者への事業承継を考えてみましょう。
M&Aの仲介をする業者に依頼すれば、条件に合った相手を紹介してもらうことができるため、まずは承継にあたっての条件などを決めて仲介業者に依頼しましょう。
まとめ
かつて中小企業の承継は親族承継が中心だったのですが、近年は親族承継の割合が下がり、その代わりに親族以外の役員や従業員、あるいは社外の第三者が承継することが増えています。
親族の後継者は不足しつつあるため、後継者が見つからない場合はM&Aなどを利用して適性のある相手を見つけるようにしてください。
また、その時は創業者利益も確保できるよう、気をつけましょう。