役員の損害賠償責任は相続財産である

取締役の会社に対する責任追及の方法として株主代表訴訟があります。責任追及は本来であれば監査役が行うべきことですが、実際のところ監査役が取締役を提訴することは困難なことが多く、株主が会社に代わって取締役に対して責任追及を行うというものが株主代表訴訟です。


取締役だけの責任で終わらないケースも
ただし株主代表訴訟はあくまでも手段であり、重要なのは取締役の責任そのものです。企業の賠償責任を取締役の損害賠償責任に転化するという意味にも取れます。
取締役や監査役が会社のためを思って良かれと思い判断したことでも、結果として間違っていたと取締役など役員個人が責任追及されてしまいます。
取締役の会社に対する義務違反と判断されることで、取締役は会社に対する損害賠償義務を負うことになるわけですが、企業の事業活動に伴う巨額な損害を取締役個人の資力で賠償することになってしまいます。
そして取締役個人の責任になるということは、相続が発生すれば取締役の妻子にまで及んでしまうことになるのです。
取締役の妻子に損害賠償責任が相続された場合
相続問題で問題視されるのは、取締役の妻子の固有財産まで保護されるかどうかでしょう。
取締役に対する株主代表訴訟が提起によって訴訟開始後に取締役が死亡した場合、相続発生時点で既に訴訟が提起されているため相続人となる妻子は「限定承認」や「相続放棄」という選択肢もあります。
取締役が死亡した相続開始後にその相続人である妻子を被告とした株主代表訴訟が提起された場合には、相続で単純承認をしていればいまさら限定承認や相続放棄は許されません。
限定承認や相続放棄には期間の制限がある
民法では限定承認や相続放棄には期間の制限が設けられており、相続開始があったことを知ってから3か月以内に限定承認や相続放棄を行うか決めなくてはなりません。
損害賠償額が相続財産を超える場合には、取締役の妻子は損害を被ることになってしまいます。
役員賠償責任保険で備えを
役員賠償責任保険は取締役や監査役が業務に関して会社や第三者に損害を与えてしまった場合に、個人で負担する裁判費用や賠償金を補償してくれる保険が会社役員賠償責任保険です。第三者からの損害賠償請求、株主からの損害賠償請求、株主代表訴訟などが補償の対象になります。
賠償責任という負の財産も妻子に承継されてしまうことになりますし、昨今では相続人である配偶者やその子に対して火の粉がふりかかり損害賠償請求を起こすといったケースもあります。
経営に全く関わっていなかった場合にはまさに寝耳に水という状況ですが、このような場合でも会社役員賠償責任保険で補償されます。