保険というと、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?
生命保険や死亡保険、自動車保険、医療保険などを思い浮かべる人が多いでしょう。
そういった保険のうち、企業向けの保険としてE&O保険というものがあります。
いざという時に備えるなら、覚えておいた方がいいでしょう。
この保険がどのようなものか、解説します。
E&O保険とは?
事業を行う際は、様々なリスクに備えておく必要があります。
特に、過失やミスによって損害を与えた時は、多額の賠償をしなくてはならないこともあるので、備えは必須といえるでしょう。
賠償責任の保険というと、有名なものとしてPL保険(生産物賠償責任保険)があります。
また、企業総合賠償責任保険というものもあり、比較的多数の企業が加入しています。
しかし、これらの保険では補償されない範囲もあります。
補償されない範囲としては、「第三者の身体障碍や財物損壊を伴わない純粋経済損害」があります。
保険用語では、純粋経済的損害といいます。
そのようなケースに備えるための保険が、E&O保険です。
E&Oというのは、Errors & Omissionsの略です。
Errorsは過失、Omissionsは怠慢という意味です。
職務を遂行する上で起こった、過失や怠慢を原因として第三者である顧客等に経済的損害を与えてしまい、その損害に対する賠償責任を負うことになった場合に、その損害を補償する保険となっています。
これは、元々国家資格を必要とするような専門職業の方を対象とした保険であり、弁護士や公認会計士、司法書士、行政書士、税理士、宅地建物取引主任者、建築士などが対象で、その種類も様々でした。
こういった仕事は高度な専門知識と熟達した技術を要求されるもので、社会的地位も高いのですが、代わりに他の仕事より高度な注意義務が必要とされるのです。
そして、過失や怠慢によって顧客等に経済的な損害を与えてしまうと、賠償責任を負う可能性は他の仕事よりも高くなってしまうのです。
純粋経済的損害については、そのサービスや製品を提供した企業がその損害に対してどこまでの範囲で法律上の賠償責任を負うことになるのかは、明確にはなっていないことも多いのです。
例えば、職務上必要なパソコンを購入して、それがまだ新しいのに故障してしまい修理に3日間かかった場合、その間の業務がストップした分の損害賠償を請求できるか、というのは判断が難しいところです。
保証期間内であれば無償修理を受けることは可能ですが、パソコンそのものが代替の利くものであった場合は他のものを使用すれば利益を逸失することは避けられたため、損害賠償は難しいといえるでしょう。
ただし、そのパソコンが特殊なものであり代替ができないものであった場合は、損害賠償を請求できる可能性もあるでしょう。
それを避ける方法があったのに行わなかったというのは、自分の責任になる可能性が高いのです。
多様化するE&O保険
日本の商取引では、これまでであれば純粋経済的損害が発生したとしても、相互扶助の精神で行われていたため、あまり積極的に損害賠償を請求することはありませんでした。
そのため、E&O保険の有用性はあまり認められていなかったのです。
しかし、経済のグローバル化によって欧米の価値観を持った商取引が行われる機会も増え、競争の激化で企業には財務的溶融が失われています。
また、消費者権利意識が高まったことで、賠償責任も厳格化されています。
その結果、国内の取引も依然と傾向が変化していて、何かあった時は損害賠償を求められる可能性も増えています。
そこで、E&O保険にも注目が集まっているのです。
ニーズが高まったことで、保険の種類も多様化しています。
これまでもE&O保険を利用することが多かった弁護士や税理士、公認会計士向けの保険は、専門職業人賠償責任保険となりました。
職業によっては保険加入が必須とされていて、団体保険制度が用意されているところもあります。
医師や看護師に関しては、純粋経済的損害ではなく医療過誤による賠償責任を専門職業人保険の中でも専門のものとして引き受けています。
医療過誤は増加傾向にあるため、引き受けるかどうかは保険会社でも慎重に検討されることとなるでしょう。
金融事業者からのニーズも、高まっています。
純粋経済的損害だけではなく、情報漏洩リスクに対するニーズも高くなっているのです。
しかし、引き受けるのは一部の保険会社のみであり、保険料も高水準となっています。
IT事業者の場合は、ネットワークの運用やITシステムの設計を担っている企業からのニーズが高くなっています。
しかし、ITビジネスは進化が早いため、そのスピードに保険が対応しきれていない面もあります。
エンジニアリング事業者は、特定のプロジェクトの契約受注の条件にE&O保険の手配が含まれていることがあるのですが、保険会社はこういった場合の引き受けには慎重に判断をしています。
製造業者の場合は、PL保険や総合賠償責任保険の特約としてE&Oを付帯することも可能です。
自動車関連業界や電気・電子関連業界では、部品や原材料メーカーが完成品メーカーへの賠償責任を保証するニーズが増えています。
手配する際の注意点
E&O保険を手配する際は、いくつかの点に注意が必要です。
特に注意したいのが、免責事項です。
どの保険でもそうですが、E&O保険も無条件に補償するのではなく、保険金を支払わないとしているケースがいくつかあるのです。
例としてIT事業者を対象としたE&O保険であれば、ITシステムを納入してから1カ月以内に顧客からのクレームが発生した場合は免責事項に該当するのです。
納入後にエラーが出るのは早期の段階が多いため、これではE&O保険を手配した意味がないかもしれません。
そのため、手配する際はリスクの実態や補償のニーズに応じて、個別に補償内容をアレンジする必要があるのです。
また、金額が大きい場合は複数の保険会社によって構成される保険プログラムを組成する必要もあるので、手配する際はE&O保険に精通した代理店やブローカーに相談した方がいいでしょう。
まとめ
E&O保険は、企業向けの保険ではこれまで補償できなかった部分に対して、補償できるものです。
特に、企業の責任を追及されることも増え、損害賠償を請求される可能性も高くなっている現在、E&O保険のようにいざという時に備えた保険のニーズは高まっています。
今後のリスクを想定して、保険に加入するべきかどうかを考えてみてください。
また、その際は補償内容や特約について、詳しく確認しておきましょう。