Vtuberに対する誹謗中傷を考える

法務リスク

近年、Youtubeなどの配信でアバターなどを使っている、Vtuberが増えています。
ネット配信だけではなくテレビに出たりCMに起用されたりと、幅広く活躍するようになったVtuberですが、認知度が高まるということはそれだけ批判的な意見も増えるということです。
問題となることが増えている、Vtuberに対する誹謗中傷について考えてみましょう。

Vtuberが増加している

Vtuberは最近増えてきており、多くの人は聞いたことがあると思うのですが、その始まりは意外と古く2011年からと言われています。
海外で登場したバーチャルブロガーがYouTubeに動画を投稿しており、当初は3DCGキャラクターでした。

その後は2014年に株式会社ウェザーニューズからウェザーロイドが登場し、ニコニコ動画では初音ミクのCGモデルを使ったMMD動画が投稿されています。
そして、2016年に登場したキズナアイが、現在のVtuberの元祖と言われています。

キズナアイは世界初のバーチャルYoutuberであり、AIであると自称しています。
当時はチャンネル登録者数が1,000人ほどと今とは比べ物にならないほどマイナーな存在だったのですが、熱狂的なファンが英語の字幕を付けたことで海外での認知度が高まり、チャンネル登録者数も大幅に増加しました。

そして2017年に問題発言によってYouTubeのアカウントが停止されたことで、ネット上で大きな話題となり復帰後にチャンネル登録者数が1万人を突破、4月には50万人を達成と大幅に躍進しました。

また、キズナアイがブレイクしたことで、新たなVtuberが登場しました。
この年に活動を開始した4人が、キズナアイと併せて5人でバーチャルユーチューバー四天王と呼ばれてVtuberブームを牽引していきます。

さらに、2018年にはVtuberが手軽に配信できるサービスが始まり、アバターを作成できるアプリも登場してVtuberは簡単になるためのハードルも大きく下がっています。
そして、個人で活動するVtuberも増える傍らで、企業も台頭してきます。

現在Vtuber事務所として最大規模の「にじさんじ」を運営するANYCOLOR株式会社(いちから)や、「ホロライブ」「ホロスターズ」などのホロライブプロダクションを運営するカバー株式会社などもこの頃から本格的な活動を開始しています。

2019年には1万近くのVtuberが活動していて、人気が分散するようになりました。
再生数が伸びにくくなったことで、Vtuberは広告収入から視聴者からの投げ銭(スーパーチャット)で収入を得るようになり、中には毎月1,000万円近いスーパーチャットを得るVtuberもいました。

しかし、2020年になると似たような配信を行った場合に収益化が停止する事態が相次ぎ、単なるトークだけではなく様々なバラエティに富んだ構成をした動画でなければ収益を得られないようになり、工夫が求められるようになっています。

Vtuberへの誹謗中傷とは?

Vtuber活動をする人が増え、注目される中で誹謗中傷も増えてきました。
特に注目されたのが、2021年にVtuberのTwitterアカウントへと届いたメッセージによって起こった裁判です。

原告はVtuberとして活動している女性で、脅迫文のようなメッセージが送られてきたことでTwitter社に投稿者の個人情報を開示するよう求めて裁判を起こしたのです。
ここで論点となったのが、メッセージの内容がアバターに向けたものか、その中の人に向けたものかという点です。

原告の女性は、中の人に向けられたもので人格権を侵害していると主張して、Twitter社はアバターに向けたものなので人格権の侵害にはならないと主張しました。
そして判決では、原告の主張通り人格権の侵害が認められて投稿者の発信者情報開示が命じられました。

これは殺害予告ですが、誹謗中傷だった場合でも発信者情報の開示請求は認められる可能性が高くなっています。
現実の人への誹謗中傷は厳罰化が進み、プロバイダ責任法も改正されたのですが、Vtuberの場合でもこれが適用されるようになっていくのです。

最近では、「にじさんじ」に所属するアクシア・クローネというVtuberが春ごろからSNS等で誹謗中傷や悪意のある虚偽情報の流布などを受け、それが悪化したことで活動休止を発表しました。

また、Vtuberがテレビに出演することもあり、2022年に「にじさんじ」のトップクラスの人気Vtuberであり若者の関心も高いとされている壱百満天原サロメがゴールデンタイムで日清のCMに登場したのですが、それについてVtuberに詳しくない人からは否定的な意見も少ないものではなく、今後さらに露出が増えた場合は誹謗中傷に繋がっていくのではないかと懸念されます。

そして2022年12月に、Vtuberグループでトップ2の「にじさんじ」と「ホロライブ」が迷惑行為や誹謗中傷に対する対策を強化することを発表し、両社は連携体制を組んで従来の対策に加えて司法・警察との連携強化、ノウハウの共有などを行っていく事となりました。

2社とも2020年から誹謗中傷等に対しての対策を行っていて、弁護士を通じて匿名投稿者の発信者情報の開示請求を行い、加害者への損害賠償請求や公式チャンネルでのコメントの制限などを行っておりANYCOLORでは1年間で90件の通報に対応しており、カバー社では2件で和解金の支払いに応じています。

インターネットが広まった1990年代からネット上での誹謗中傷は発生しており、2010年代になると急増して深刻な社会問題となりました。
かつては匿名での嫌がらせが多かったのですが、近年ではそれにとどまらず著名人の暴言や偏向報道、政治家の扇動なども各国で問題となっています。

Vtuberは誹謗中傷の他にも、虚偽情報の流布や信用・名誉毀損、上場企業への風説の流布、顔写真の暴露といった被害があります。
これはプライバシーの侵害や業務妨害、危害予告、ストーカー・つきまとい等に当たります。

Vtuberに対する誹謗中傷は、中の人に対しての名誉毀損に該当するということが判例によって明らかとなってきた今、Vtuberへの誹謗中傷も収まっていくことが望まれます。
今後、新たな誹謗中傷が生じることが無いようにするため、運営企業だけではなくVtuberファンの良識も求められることとなるでしょう。

まとめ

Vtuberはアニメのキャラと同様のものと考えて気軽に誹謗中傷を行う人は少なくないのですが、アニメとは違ってそれを動かす人は現実として存在しているため、アニメというよりはコスプレをしているか、イラストという着ぐるみを被った配信者、という考えが正しいでしょう。
そのため、Vtuberのキャラは配信者本人であり、それに対する誹謗中傷は中の人に対する名誉棄損になってしまのです。