膨らむ認知症高齢者の保有資産、マネー凍結リスクの実態

事業運営リスク

認知症となった高齢者が保有する財産の合計は、年々増えつつあります。

日本の家計が保有する財産の10%前後はあるとされているのですが、取引できなくなって凍結したのと同じ状態になってしまうことがあるため、超高齢社会といわれる現代では新たな社会問題となりえるのです。

個人資産凍結問題について、解説します。

高齢化に伴う個人資産の凍結問題

日本は、他国に先駆けて2007年から超高齢社会に突入しています。

高齢者は年々増加していて、2040年には4000万人弱に増え、高齢者比率は35%以上となると言われているのです。

原因となるのは寿命が延びていることに加え、人口に占める割合が大きい団塊世代が後期高齢者になり始めたことなどがあります。

今後、高齢者の中でも特に80代、90代の超高齢層が増えていくというのが、今後の特徴となるでしょう。

年齢が高くなれば、比例して認知症の発症率も高くなってしまいます。

男性は90代の約5割、女性は、90代前半の3分の2、後半になると8割以上の人が認知症になるという推計もあるのです。

認知症が発症してしまうと、意思判断能力が低下します。

自分で意思を示したり判断したりすることができなくなると、保有している金融資産、不動産などの管理や売買などなどができなくなったり、難しくなったりするでしょう。

財産を自分で動かすことができなくなるのは、資産が凍結された状態と変わりません。

本人や、生計に関わる家族の暮らしにも支障が出てしまうでしょう。

また、社会全体から見ても、資金が消費されたり投資されたりすることがなくなり、中古住宅の流通が滞ってしまうことで、経済停滞の一因となるかもしれないのです。

若中年層と比べると、高齢層が保有する財産は大きいため、マクロ経済に対するインパクトも大きなものとなります。

認知症の発症による個人資産の凍結は、新たな社会問題となるのです。

2020年時点で、認知症高齢者が保有している金融資産は175兆円、不動産は80兆円にも上り、合計は255兆円となっています。

全家計保有額と比べると、金融資産が8.6%、不動産が7.4%、合計では8.2%となっています。

2030年には、金融資産が218兆円で全体の11.0%、不動産が100兆円で全体の9.4%となり、合計は318兆円で全体の10.4%になると推定されています。

今後20年で、凍結資産は1.4倍になると言われているのです。

他国と比較しても、日本の高齢者比率は2021年時点で29.1%と世界最高となっていて、年齢階層別にみた認知症有病率も欧米より高くなっているため、認知症高齢者が保有する財産の比率を見た場合も世界最高位レベルといえます。

米国の認知症高齢者の保有財産の割合を試算してみると、家計金融資産のうち認知症高齢者が保有する資産は3.6%、不動産は2.7%となっていて、資産総額では3.2%と日本の半分以下しかないのです。

日本の方が高齢者比率は高いのはもちろん、認知症有病率も高いというのも理由の1つですが、他にも日本の高齢層と若中年層の1人当たりの資産保有額の差が米国よりも大きく、高齢者が資産を保有しているということが原因となっています。

認知症になってから資産の処分などができなくなって慌てないように、後見制度や代理制度、各種信託の利用など、事前に対策を講じておくことが重要となります。

また、不動産に関しては後見制度などで処分ができる状態にしておきましょう。

地域別の凍結資産の割合

認知症の高齢者が保有している資産を都道府県別に推計すると、2020年時点で5つの都道府県でそれぞれ10兆円を超え、大きな割合を占めていました。

金融資産に関しては、上位5県に4割が集中しているのです。

最も多かったのは東京都で、19.2兆円でした。

次いで多いのが神奈川県で16.6兆円、大阪府は12.5兆円です。

愛知県、埼玉県もそれぞれ10兆円を超えています。

地域別に見ると、首都圏に全体の3割強が集中していて、近畿圏と中京圏を加えると全体の6割が集中していることになるのです。

一部の県、地域に偏在していることが、データからわかるでしょう。

今後、どの都道府県も認知症高齢者の保有する金融資産は増加していくのですが、増加の仕方は異なります。

2040年には、神奈川県が東京都を上回ると考えられているのです。

また、現在の上位5県に加えて、兵庫県と千葉県でも10兆円を超えると考えられています。

特定県や地域への集中も、現状よりさらに高まると考えられています。

不動産に関しても、2020年時点で東京都が25.4兆円、神奈川県で8.9兆円となっていて、ついで愛知県と大阪府でも約5兆円を保有しており、東京都では不動産が金融資産を上回っているものの、他の府県では金融資産の半分以下となっているのです。

不動産総額に占める認知症高齢者の保有割合を見ると、東京都だけでも3割、首都圏の合計では5割となり、近畿圏と中京圏を加えると全体の4分の3になってしまいます。

今後、認知症高齢者の保有不動産は、さらに増えていくでしょう。

資産総額でみると、東京都は44.6兆円と他県よりかなり多く、次いで神奈川県が25.4兆円となっています。

また、大阪府は17.6兆円、愛知県は16.5兆円で、首都圏に4割近く、三大都市圏の合計で6割強が集中しているのです。

2040年になると、東京都は60兆円、神奈川県では40兆円、埼玉県、愛知県、大阪府ではそれぞれ20兆円を超えるといわれています。

また、兵庫県と千葉県、福岡県でも10兆円を超えると推計されています。

地域別の割合でいえば、首都圏には4割が集まり、三大都市圏の合計では3分の2が集中してしまうのです。

特定エリアへの集中に関しても、現時点より傾向が強まるとされています。

東京都が多くを占めている原因としては、高齢者数が322万人と他県より多く、高齢者の資産保有額の平均も他県より多いことがあります。

特に、金融資産が多く、不動産価格も格段に高いというのも原因となっているのです。

まとめ

認知症の高齢者が保有する資産は、2020年時点の255兆円から2040年時点には349兆円まで膨らむ可能性があることがわかりました。

巨額の資産の「凍結」を防ぐためには、後見制度や代理制度、各種信託の利用など、事前に対策を講じておくことが重要となります。

また、不動産に関しては後見制度などで処分ができる状態にしておきましょう。

認知症の高齢者や家族が安心して暮らしていくためにも、認知症に備えておく必要があるのです。