103万円の壁から178万円の壁になった場合、どう変わる?

社会保険制度(年金/医療/雇用/労災/介護)

年収にはいくつかの金額の壁といわれるものがあり、現在は所得税に関して103万円の壁というものがあります。

しかし、現在の壁が今後178万円の壁に引き上げられるかもしれないのです。

なぜ、引き上げる必要があるのでしょうか?

変化の必要性と、変化した場合はどのような影響があるのか、解説します。

そもそも103万円の壁とは?

103万年の壁というのは、給与所得が基礎控除と給与所得控除の合計である103万円以下であれば所得税がかからない、という基準のことです。

所得税が発生しないように、就業時間を調整しながら給与を一定以下に抑えようと考えながらアルバイトやパートとして働く人もいます。

また、本人だけではなく扶養者の所得控除にも影響があり、扶養控除を受けられるかどうかの基準になるのです。

178万円の壁に引き上げられる背景

では、なぜ引き上げが検討されているのかといえば、壁の基準が1995年から変わっていないという点が理由となります。

1995年以降据え置かれているため、当時から比べて最低賃金が1.73倍になっている現在は物価や賃金に見合わない金額となりつつあるのです。

最低賃金と同じように壁の基準額も変えるべきという考え方から、1.73倍の178万円の壁にしようと考えられています。

最低賃金が引き上げられると従業員にはメリットが大きいはずなのに、壁を気にして就業時間が少なくなっては意味がないのです。

従業員は働きたくても働けない、事業主は働いてほしいのに人手不足となってしまいます。

現状に見合わない金額の設定は労働者の就業意欲を削ぐことになるため、基準の見直しが求められることとなったのです。

また、基準を見直すこととなれば国民の手取りを増やすことにもつながるため、インフレの対策になるとも考えられています。

他にも多くの案があるのですが、年収の壁に関して引き上げがあると手取り額は確実に増えると試算されているのです。

国民民主党の公約にも沿った内容なので、国民の所得を増やすことができれば公約を実現できたことになります。

ただし、税金収入はおよそ8兆円下がると試算されているため、引き上げを実現するには多くのハードルがあるでしょう。

人手不足に悩む企業は多いのですが、引き上げが実現すると労働力不足の解消にもつながります。

所得税や扶養控除を気にせず長時間働くことができるようになるため、労働力を得やすくなるのです。

最低賃金の引き上げによって、壁を超えないように働きたい場合は労働時間を短くする必要があります。

人手不足の中で労働者の働く時間も削られることとなると、さらに人手不足になってしまうのです。

現在の日本で、働き控えというのは損失につながるため、事業主と政府にとっても労働力不足が解消されるというのは大きなメリットがあります。

事業主が備えるべき点

壁の基準の引き上げが実現された場合、事業主は単に従業員の労働時間を調整するだけではなく、事前に準備をしておく必要があるのです。

事業主にとっては、労働力を確保できる代わりに人件費が増加することとなるため、コスト増につながるのです。

生産性の向上にもつながって利益が増加する可能性もあるため、増えた人件費以上の付加価値を創造できるように人材配置を行う必要があります。

労働時間の変化や加入する保険の変更などがあると、労使間のトラブルを防ぐためにも雇用契約を見直す必要があるでしょう。

また、保険は必要に応じて加入させなければ、行政機関から指導が入ってしまう可能性もあります。

壁の基準を引き上げる理由としては、主に国民の手取りを増やすことであり、年収などで異なるものの10万円以上手取りが増えるケースも考えられるのです。

小売業や飲食業などは消費の喚起の影響を受けやすいのですが、人手不足だとサービスが提供できずに逸失利益が生じるかもしれません。

慢性的に人手が足りない店舗では、今まで以上に人材を確保する必要が生じるため、収益増加のためにもしっかりと対応しなくてはならないでしょう。

大企業とは違い、中小企業は人材確保が難しいのですが、しっかりと対策をしておくことで人材を確保しやすくなります。

正社員を確保したい場合は、ワークライフバランスを実現し、フレックスタイム制度などの柔軟な勤務体制の導入などが有効です。

また、キャリアパスの整備や資格取得の支援制度、給与水準の向上、独自の福利厚生なども求められます。

アルバイトやパートの場合は、シフトをできるだけ希望通りに組める柔軟な対応や、求人サイトの活用、必要な手当の支給などが求められるでしょう。

正社員の場合は長期的に安定した雇用を期待していて、今後のキャリアアップのための資格取得の支援などは特に効果があります。

アルバイトやパートの場合、家事や育児、学業との両立を希望する人も多いため、個々の都合に合わせて柔軟に働ける体制が求められるでしょう。

また、アルバイトやパートは心理的に転職へのハードルが低いため、周囲により良い条件の求人が見つかれば転職してしまうこともあります。

可能な範囲で手当てなども支給して、働きやすい職場としてアピールを行い、長期的な労働力を確保するための取り組みが必要となるでしょう。

また、年収にはほかにも様々な壁があるため、働く人の都合によっては引き上げられた基準に満たない場合でも一定の年収を超えないようにしようという人もいます。

特に、社会保険に関する壁を超えた場合は所得税の壁よりも大きな影響があるため、年収を抑えようという人は少なくないでしょう。

社会保険に加入した場合のデメリットだけではなく、メリットについてもアピールすることが労働力の確保には必要となります。

また、政府では年収の壁を超えて手取りが減少した場合の助成金制度を設けているため、あてはまる場合は申請してみてはいかがでしょうか?

まとめ

最低賃金の向上に合わせて、所得税に関する年収の壁を103万円から178万円に引き上げるという話が出ています。

実現した場合は、パートやアルバイトとして働く人の収入が増えることにもつながり、企業も労働力不足を解消することにつながるでしょう。

しかし、企業としてはコスト増の対策や利益増につなげる方法なども考える必要があるため、事前にしっかりと準備をしておくことが求められます。