病気になったら治療のために退職する、という人もいますが、本当に退職する必要があるのでしょうか?
また、それとは反対に、仕事のために治療をおろそかにしているという人もいるのですが、そのせいで病気が重篤化して結果仕事を辞めざるを得なくなるというのでは、意味がありませんよね。
こうした社員は、特に支援の体制が整っていない中小企業でよく見られます。
治療と仕事が両立できるよう、中小企業でも支援に取り組んでいきましょう。
現在の労働者の状況
厚生労働省のデータでは、現在病気のために連続して1か月以上休業している社員がいる企業の割合は、メンタルヘルスが38%と最も多く、次いで癌が21%、脳血管の疾患が12%となっています。
また、別のデータでは、癌で通院しながら使途をしている人は32万5千人ともいわれています。
さらに、病気にはなっていないものの、心臓疾患や脳疾患につながるリスクが高い、未病といわれる高血圧や血中脂質などの有所見率は53%にも及ぶなど、今後病気を抱える労働者は増えていくとみられています。
職場の平均年齢が今後上がっていくとみられている現在、こうした病気を抱える社員はますます増えていくことになるでしょう。
特に、中小企業の場合は従業員の平均年齢が高くなる傾向にあるので、その危険性はますます高くなっていきます。
しかし、その一方で中小企業の多くは、人材不足にも悩んでいます。
社員が病気になったから治療に専念するために退職するといっても、そうそう代わりの人材は見つかりません。
それでは、どうしたらいいのでしょうか?
大きな企業では、たとえ従業員が病気となっても退職する必要がないように、様々なサポート体制などを整えて治療と仕事が両立できるようにしています。
今は、中小企業でも治療と仕事の両立支援に取り組んでいかなくてはいけない時代となっているのです。
両立支援といっても、どのようなことをするべきか具体的にわからないという企業もあると思います。
まずは、具体的な支援の内容について、考えてみましょう。
両立支援とは?
両立支援を行うにあたって、まず大切なのは労働者の意思です。
原因となっているのは労働者の私的な傷病なのですから、ただ労働者を働けるようにするのではなく、まずは本人から支援を望むという意思を確認する必要があります。
これを守らずに支援を行うと、「病気なのにまだ仕事ができる」ではなく、「病気なのに退職させてもらえない」という評価になってしまいます。
病気でも、治療しながら働くことができるということを知ってもらうために、まずは労働者にその方針を周知する必要があります。
また、それに伴って支援制度を知ってもらうための研修などを行って、病気となった本人だけではなく周囲の人間も、いざという時にフォローできるよう意識啓発を行います。
また、同時に相談窓口についても、明確にしておきましょう。
具体的な体制や制度を整備するときに、まずは休暇制度や勤務制度について整備しましょう。
通常、勤務時間や休暇制度というのは1日もしくは半日区切りなどで管理されますが、これをもっと細かく管理します。
まず、年次有給休暇については労使協定を結んだうえで、1時間単位で取得できるようにしましょう。
その場合、1年で最大5日分までが時間単位で取得できます。
これは、短時間での治療を定期的に繰り返さなくてはいけない場合に利用できるようにするためです。
また、有給休暇とは別に、入院治療や通院の際に取得できる病気休暇や、傷病休暇の制度を設けておきましょう。
この場合の賃金の支払いなどの処遇については、その企業が自由に定めることができます。
勤務については、始業時間を変更した時差出勤や、勤務時間を短縮した短時間勤務、もしくは在宅で仕事ができるテレワークなどの制度を導入することで、通勤の負担などを軽減することができるでしょう。
また、長期間休業して久しぶりに出社する場合は、復職しやすいように勤務日数や勤務時間を少なくした試し出勤制度を利用できるようにしたほうがいいでしょう。
ただし、この制度の利用については、会社から押し付けるのではなくあくまでも治療を望む労働者が自分の意思で申請する必要があります。
そのため、企業としてはこうした制度を設けるにあたって、適切な制度の利用ができるよう組織全体に周知し、理解してもらう必要があります。
実際に、厚生労働省からガイドラインが発行されたものの、それを知らなかった経営者は約67%、人事労務担当者は約36%にも及びます。
また、中小企業に勤務する労働者のうち、6割以上がこのことを知らない、という結果も出ています。
これは全く知らないという人だけの割合なので、実際に大まかな内容を知っている人の割合は経営者で12%、人事労務担当者でも30%弱であり、労働者の場合は11%程度しか知りませんでした。
特に、現在治療中の病気があるという労働者に限っても、その15%程度しか内容を知らないという結果から、周知が不可欠であることは明白でしょう。
労働者が自ら申し出なくてはいけないため、内容を知られていないというのは制度の利用にとって致命的な問題です。
会社が主体となって、多くの社員に知ってもらうことで安心して働ける職場環境を作り上げていく必要があるでしょう。
両立支援制度を構築するために
最近は、介護休業や育児休業に目を向ける企業は増えていますが、治療と仕事の両立支援についてはまだまだ浸透しているとはいいがたい状況です。
そのため、制度を構築するにはどうするべきか、手を付けられないという企業もあると思います。
こうした制度を導入して、過不足なく運用していくには手探りの状態では心もとないので、専門家のアドバイスを受けながら導入していくことをお勧めします。
実際に、何社かで導入の実績がある専門家なら、ますます望ましいでしょう。
両立支援の専門家となるのは、圓越しや産業医、社会保険労務士、そしてキャリアコンサルタントなどです。
キャリアコンサルタントといえば、個人のキャリア形成支援をする職業のように思えますが、今では仕事の環境に働きかけるというのもキャリアコンサルタントの役割となっているのです。
また、中小企業の場合はこうした制度を導入したくても、予算が足りないということもあるでしょう。
その場合は、国や自治体が支給している助成金を利用しましょう。
この場合に当てはまる助成金の種類としては、障害者雇用安定助成金が該当します。
また、東京都に会社がある場合は、都が支給している東京都難病・がん患者就業支援奨励金も当てはまることになるでしょう。
助成金については、たとえ要件を満たしていても自動的に支給されるのではなく、申請して審査を受ける必要があります。
どのような助成金があるのかをきちんと確認して、利用できそうなものは申請してみましょう。
こうした制度を活用しつつ、従業員が安心して働けるような職場環境を整えていきましょう。
まとめ
病気になったからと仕事を辞めたり、仕事が忙しいからと病気を放置して重篤化したりすることは、現代の状況にそぐわない選択といえるでしょう。
病気の治療と仕事を両立して、働きつつも病気の治療を進めていくというのが、現代に求められている形です。
そのためには、中小企業でも治療と仕事の両立ができるように支援する制度を導入していかなくてはいけません。
何が必要かを把握して、積極的に導入していきましょう。