生命保険の中でも、郵便局窓口で取り扱っていることからなじみ深い「かんぽ生命」において不適切な契約が結ばれていたことが発覚し、大きな問題となりました。
この問題は、具体的にどういったものであり、またどのような背景から生じたのでしょうか?
本記事では、かんぽ生命問題について解説していきます。
かんぽ生命問題の概要
かんぽ生命という、多くの人が利用している生命保険に起こった大きな話題、かんぽ生命問題ですが、具体的にはどのような内容だったのでしょうか?
問題の概要について、確認しておきましょう。
そもそも、かんぽ生命については以前から、高齢者に対する強引な勧誘などが問題視されてニュースにもなっていました。
かんぽ生命では、その点についてはこれまで否定していたものの、2019年6月には否定しきれない状況となり、今回の問題へとつながったのです。
何があったかというと、かんぽ生命が昨年11月の契約内容についての自社調査を行ったところ、2万1千件の契約のうち5800件が乗り換え契約であり、その中に顧客が不利となるような契約が何件も含まれていることが確認されたのです。
さらに、それ以降の調査でも同様の契約が次々と発覚し、6月中に2万件以上といわれた不適切な契約が、7月には13万7千件と大幅に発覚件数が膨れ上がったのです。
これは、調査する期間を過去2年半から5年に増やした結果とされています。
この事態を厳粛に受け止めて、日本郵政とかんぽ生命、日本郵便の各社長により7月31に開かれた合同会見で、調査した結果の発表と今後の対応について報告しました。
これが、かんぽ生命問題といわれるようになった事件のあらましです。
7月10日にも会見が行われていて、その時にかんぽ生命の植平社長はかんぽ生命株が売り出された4月の時点で不正があったことを把握していないと答えていたのですが、その後4月に不正事案について内部での報告があったということが明らかになっていました。
その点については、不正事案が示す内容についての認識が異なっていたと説明し、今回の不適切な契約のことではなく別件の法令違反に関するものだと強調していました。
また、2017年からはかんぽ生命の募集について品質改善に取り組んでいたという声明もありますが、それならなぜ今更になってこのような問題が表面化したのか、という疑問も残ります。
具体的な問題点
今回問題となったのは、かんぽ生命の保険契約に関するトラブルです。
具体的には、どのようなトラブルが生じたのでしょうか?
その内容について、解説します。
主に問題となった点は2つあり、いずれもかんぽ生命の加入者に対して新しい契約をすすめて、そちらに乗り換えるという契約の変更に伴って起こっています。
そのうち1つは、二重契約に関する問題です。
どういうことかというと、既存の契約者が新しい保険商品へと乗り換える際に、これまでの契約を変更するのではなく、古い契約をそのままにして新しい保険に加入させて、7か月が経過してから古い契約を解除させるというものです。
そうするとどうなるかといえば、契約者はこれまでの保険料をそのまま支払ったうえで、さらに新しい分の保険料も支払わなくてはいけなくなるので、結果として解約までの6か月間は2つの保険に加入していることになり、2重に保険料を支払うことになってしまったのです。
これも大きな問題となりましたが、さらに深刻な問題となったのがもう1つの方です。
それは、既存の契約を解約させて、3か月後に新しい契約へと加入させる方法です。
この方法ですが、大きな問題があったのです。
この方法の大きな問題点は2つあります。
1つは、せっかく万が一に備えて加入していても、いったん契約を解除することになるため、その間に何かあっても保障を受けることができない無保険期間が生じてしまうことです。
この点は、その間に何事もあった場合だけ問題となるので、それほど被害を受けた人はいないのですが、もう一方が問題となりました。
それは、新しい契約を結べない人が続出したのです。
なぜ契約が結べないのかというと、前の保険に加入した時には病気を患っていなかったものの、現在はその病気があるせいで新たに保険へと加入することができなくなったというケースが多発していたのです。
このケースは、特に一定以上の年齢の人に生じました。
せっかく病気に備えてかんぽ生命に加入していたのに、年齢を重ねてからかかった病気のせいで備える子ができなくなってしまったのです。
もちろん、これらの行為をすべて説明した上で行っていたのであれば問題はないのですが、実際は顧客に対して十分な説明をしないままに行われていました。
いったいなぜ、このようなことになったのでしょうか?
問題の背景
この問題が起こった背景として、郵便局員に対して課せられていたノルマがあります。
かんぽ生命の契約は郵便局員が取り次いでいましたが、その局員には新規契約のノルマが課せられていました。
しかし、例えばすでにかんぽ生命の契約を結んでいる人が、新しい契約に乗り換えたとしてもノルマ達成とはならない仕組みになっていました。
しかし、現在の契約を残したまま新たな契約を結び、その状態が6か月続いていればノルマ達成のポイントになるという仕組みだったのです。
また、現在の契約を解約して3か月以内に新規の契約をしても、ノルマ達成とはならないため、3か月が過ぎてから新規契約を結ぶようにしていたのも同様です。
とはいえ、通常の生命保険ではこのような契約の仕方は受け入れられることはないでしょう。
この契約が横行したのは、郵便局の顧客の層と郵便局に対する認識によるものです。
郵便局の顧客には高齢者が多いため、説明についてはそれほど詳しく聞くことがなく、言われるがまま契約をしていくケースが多かったのです。
なぜ、顧客は言われたことを疑わないのかといえば、多くの高齢者にとって郵便局というのは、民営となった今でも国営であった時代の認識が強く残っているので、人を騙すということが念頭に浮かびにくいのです。
先んじて民営となったNTTも、長らく国営という意識が抜けない高齢者が残っていました。
郵政民営化も、20年以上前からその話は出ていたものの正式に日本郵政グループとなったのは2007年のことであり、その後現在の体制になったのは2012年のことでした。
民営化の後も、郵政事業については国会での議題となることも多く、経緯が複雑となっていることから高齢者にとっては、民営化の話が出ていたもののまだ国営のまま、という意識を残している人が多いのです。
今回の問題を受けて、かんぽ生命は当面の間保険営業を自粛するという方針を示していますが、すでに株価の下落などの影響が出ている現在、何らかの改正案を打ち出さなくては株主が離れていってしまう可能性は高いでしょう。
まとめ
日本郵政グループの株式が上場してから、間もなく表面化したかんぽ生命問題において、日本郵政グループの株価は軒並み大幅に下落することとなってしまいました。
顧客のことを顧みない不誠実な契約を結んでいたということで、今後かんぽ生命に対する不信感を抱く人は多いでしょう。
今後、かんぽ生命の加入者からの信頼を取り戻すために、どのような取り組みをしていくのか、注目していきたいものです。