企業で働く社員が、病気になることは珍しくありません。
病気になった場合、仕事を休んで療養する人もいるでしょうが、治療と仕事を両立しようとする人も少なくありません。
企業の経営者は、こういった社員が両立できるように支援する、という意識を向上させることが不可欠となっています。
どうすればいいのか、解説します。
治療と仕事の両立
病気は、いつ、誰の元へと訪れるものかわかりません。
今まで元気にしていた人が、知らないうちに大きくなった病巣のせいで急に倒れることもあるのです。
がんも、毎年100万人前後が診断される病気ですが、自覚症状がない人もたくさんいます。
そして、病気になったからといって仕事を休める人ばかりではないのです。
例え病気になって治療が必要でも、仕事を続けながら治療をしたいと考える人は少なくありません。
そして、治療と仕事の両立には務める会社の支援も不可欠なのです。
厚生労働省では、2016年に「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」を公表しています。
これは、治療をしながら仕事を続けたいと思っている社員が病状を悪化させることなく、適切な措置を行って治療を受けられるよう配慮する企業の参考として公表されたものです。
また、その後の働き方改革実現会議でも、治療、介護、子育てと仕事の両立について検討されることが発表され、その実行計画では会社の意識改革と受け入れ体制の整備、トライアングル型支援などの推進、産業医・産業保健機能の強化の3点が掲げられています。
政府でも力を入れているこの両立については、本人と事業者、医療機関、社会の視点から両立支援の位置づけと意義について考えられ、企業は労働者の健康確保や継続的な人材確保、人材の定着に生産性の向上など健康経営の実現を目指すことで、多様な人材が活躍できる職場環境づくりや社会的責任の遂行、ワーク・ライフ・バランスの実現などのメリットがあるとされています。
両立支援の留意事項
両立支援に当たっては、いくつかの留意事項があります。
まず、本人が治療と仕事を両立したいと申し出ることが基本です。
決して、治療が必要でも仕事を続けるよう強制するものではないのです。
また、両立支援の対象となる人は、通院や入院、療養に費やす時間を確保する必要があり、病状や治療において生じる副作用・障害などで業務遂行能力が一時的に低下する可能性があることにも配慮しなくてはいけません。
どのような人が対象となり、どんな対応をするのかも明確にする必要があります。
こうした社内ルールを労使の理解を得たうえで制定し、経営者が基本方針を定めて周知徹底することも大切です。
また、それに伴って病状などの情報を得る必要がありますが、これは個人情報にあたるため本人の同意なく取得できません。
労働安全衛生法が改正されたことで、健康情報取扱規定を定めることが義務となったことで、同意取得の手続きも明確になりました。
両立支援を可能とするには、事業場関係者や社員の家族、医療関係者など様々な関係者が連携する必要があります。
連携によって、業務内容や症状に応じて両立支援を適切に行うことができるようになるのです。
両立支援を行うには、環境整備も必要です。
情報収集を多角的に行い、助成金などの公的支援を利用することも検討しましょう。
それと合わせて、従来の健康診断やがん検診の見直しも行ってください。
今後行うべき取り組み
両立支援を行っていくうえで、今後取り組んでいくこととしてはまず、両立支援の啓発があります。
まだガイドラインの認知率も低いため、関係団体による広報活動が不可なのです。
全国的な支援策と、民間団体や自治体で実施されている両立支援の取り組みがあるのですが、今後はその連携も重要となるでしょう。
情報共有や周知・啓発の議論も行われ、企業向けのパンフレットも作成して配布されています。
現在、がん検診の無償化や発症事例への積極的な取り組みを行っている企業には、経営者への表彰や認定の制度があります。
今後は、社内の研修プログラムの提供や、自社の両立支援レベルの簡易評価が可能な診断指標などの開発にも期待されています。
両立支援に取り組む企業は増えていますが、それを効率的に広めるためにも好事例を収集し、データを蓄積していくデータベースの構築、および活用も必要とされるでしょう。
小規模事業場を対象として、支援の窓口の設置や体制強化も、急いで必要とされます。
両立支援に関しての企業の課題としては、参考にする具体的な支援事例や情報が不足している点や、慢性的な人手不足が続く中で両立支援のノウハウが不足してしまう点、健康者を中心に全従業員の両立支援意識を向上させる点などが合います。
今は働き方改革も広まり、経営戦略に健康経営が含まれている現在は、人事戦略に治療と仕事との両立も組み込みましょう。
取り組みには、助成金も活用しながら長期間になるでしょう。
両立支援については経営者の意識向上も不可欠なのですが、それ以上に必要となるのは両立を希望する社員自身による取り組みです。
両立には、社員が会社へと支援を申し出るか、会社側がその病気について把握することで始められるようになるのです。
たとえ会社がどんな優れた制度を用意していても、社員の申し出か会社側の気づきがなければ利用できないのです。
それでは、どんな施策を考えても無意味になってしまいます。
必要となるのは、環境整備です。
そして、それに加えて健康者も含む全員で医療に関する知識を習得する機会、あるいは多くの人が体験を共有できるようなネットワークが必要とされます。
社員には、自己保健義務の啓発も行いましょう。
病気を予防するための自己管理や、生命保険への加入、経済的備えなどが必要なので、それを行うよう伝えていくのです。
まとめ
社員が治療を必要とする状態になった場合、企業はその治療と仕事を両立できるように支援したほうがいいでしょう。
そのためには、まず経営者の意識向上が必要となるのです。
両立できるようにするには、様々な制度の整備などが必要となります。
自社でできることから、コツコツと進めていきましょう。
そうして、社員が安心して働ける企業を目指しましょう。