平成9年にスタートしたエンジェル税制は、令和2年の税制改正によって要件が緩和されています。
この税制は投資家にとって魅力的な内容なのですが、まだ知らない人もいるでしょう。
エンジェル税制には、どのような魅力があるのでしょうか?
その制度の内容について、解説します。
エンジェル税制とは?
エンジェル税制は、個人投資家がベンチャー企業に投資すると税制上の優遇措置を受けることができるというもので、中小企業庁が行っている制度です。
その目的は、未上場のベンチャー企業への投資を促進することです。
投資対象となるベンチャー企業は、経済産業局に申請をして認められた企業だけです。
そのため、どのベンチャー企業に投資しても制度が適用されるというわけではありません。
個人投資家が税制優遇を受けられるのは、投資をしたタイミングとベンチャー企業の株式を売却したタイミングです。
それぞれ、異なる優遇措置を受けることができるようになっています。
投資した年には、2つの優遇措置のどちらかを受けることができます。
1つは、ベンチャー企業への投資額から2000円を差し引いた金額をその年の総所得金額から控除できるというものです。
ただし、この優遇を受けることができるのは投資したタイミングが2008年4月以降の場合のみで、それ以前に投資した人はこの優遇措置を選択できなかったのです。
また、控除対象となる投資額は、総所得金額の40%か1000万円のどちらか低い方が上限となります。
もう1つの優遇措置は、投資した金額を全額、その年の対象企業以外の株式譲渡益から控除することができる、というものです。
この場合は、控除対象の投資額の上限はありません。
売却時は、エンジェル税制の対象となる株式の売却で損失が出てしまった場合に、他の株式を売却した利益を損失分相殺できるというものです。
また、その年だけで相殺しきれず損失が上回っていた場合は、以降3年間損失を繰り越して株式譲渡益を相殺することができます。
ベンチャー企業が破産や解散などで上場できなかった場合は株式が無価値になるのですが、その場合でも損失を3年間株式譲渡益から繰り越して相殺することができます。
ただし、売却時に注意したいのが投資の時の優遇措置です。
投資の時に優遇措置を受けていた場合は、優遇措置によって控除された対象額を取得価格から差し引いて売却損失を計算しなくてはならないのです。
例えば100万円投資したものの破産して無価値になった場合、最初の優遇措置で40万円の控除を受けていれば60万円の損失として計算することとなります。
エンジェル税制の要件
エンジェル税制を受けるためには、ベンチャー企業と投資家それぞれに要件が定められています。
どのような要件となっているのか、解説します。
まず、企業側の要件はいくつかあるのですが、その内3つは令和2年に改正されました。
1つ目は設立してから経過した年数や研究開発を行っている人数などがあるのですが、このうち設立してからの経過年数については令和2年の改正で、これまでは認められなかった設立後5年未満の企業でも認められるようになりました。
2つ目は都道府県への申請で、制度を利用したいベンチャー企業は都道府県に申請が必要となるのですが、令和2年からはその申請書類が一部削減され、定款や組織図、法人税確定申告書別表二などの提出は不要となりました。
3つ目は経済産業大臣認定制度が拡充したことで、新たに株式投資型クラウドファンディング事業者も一定の要件を満たしていれば、少額電子募集取扱業者としてエンジェル制度の対象となるようになったのです。
改正では、この3点に変更がありました。
それ以外の資本金の金額や株主の要件、大規模法人からの投資などの要件については、変更されていません。
一方、投資家側の要件はそれ程複雑ではありません。
まとめると、投資対象の企業と個人的な関わりがないかという点が守られていれば、問題はありません。
詳しく説明すると、1つ目は対象企業が新たに発行した株主を手に入れる際、きちんと代金を支払っているかどうか、という点が問題となります。
既に発行されている株式を取得した場合は、エンジェル税制の対象とはならないので注意しましょう。
また、新たに発行された株式に投資した場合でも、税制の対象になるのは現金出資の場合に限られます。
現物出資は、対象にならないのです。
現物出資にあたるものは、まずデット・エクィティ・スワップがあります。
これは、株主の貸付金を株式に振り替えることを言います。
スワップが借入金という代用払込で行われて金銭の払込が一切ないため、現物出資となります。
転換社債型新株予約権付社債の転換も、現物出資にあたります。
企業から見れば、社債という負債を資本金などに振り替えることとなり、株主にとっては社債という有価証券を株式に振り替えることになるため、金銭の払込はありません。
もう1つの要件は、対象企業が同族会社であれば、その判定の基礎となる株主、あるいは株主グループに属していないことです。
対象となるベンチャー企業が同族会社ではない場合、全株主がこの要件を満たしていることになります。
同族会社は、3人以下の株主や株主グループが持っている株式もしくは議決権が全体の50%を超えている会社のことを言います。
この同族会社の上位3位までの株主や株式グループに入っている場合は、エンジェル税制が適用されないのです。
ただし、自分の所有割合を加える前に50%を超えている場合は、税制が適用されます。
例えば、所有割合が最も多い株主が全体の過半数を所有している場合、2番目、3番目であってもエンジェル税制は適用されるのです。
なお、1番多い人が50%、2番目が20%、3番目が18%の場合、1番だけではなく2番も対象外となるため、注意しましょう。
また、株主4人が25%ずつ所有している場合は、4人とも対象外になります。
まとめ
エンジェル税制は、ベンチャー企業に投資したいという人にとっては非常に魅力的な制度です。
しかし、すべてのベンチャー企業が対象というわけではないため、注意しましょう。
以前よりは要件が緩和されたため、対象となる企業も増えているのですが、まず申請していないと対象企業とはならないため、申請をして認められているかどうか中小企業庁のホームページで確認してみてください。