私たちが忘れることができないあの大震災から6年が経過し、年を明けて春が訪れると、まる7年になります。2011年3月11日東日本大震災。多くの方が犠牲となり、まだまだ復興中の地域が多いのが現状です。震災の影響を受け事業の売り上げが落ち込み、資金繰りに苦労したという話を多く聞きます。このような緊急事態から会社を守るための方法として「事業継続計画=BCP※以下BCP」という考え方があるのをご存知でしょうか?中小企業庁では2008年3月にBCPの基本ガイドを発表しています。首都圏直下型や東海、東南海沖地震へのリスクや未知の感染症・テロなど企業活動に影響を及ぼす事態も考えられる中、経営者としてどのようなリスク対策の準備ができるのかを考えてみます。
企業を取り巻くリスクとは?
企業に影響を与えるリスクには様々なものが考えられ、その要因によって直接的なものと間接的なものが存在します。事業を継続していく上で考慮すべき対象は、事業を継続する上で影響を与えるリスクになります。すなわち、その事業を支える重要な業務(活動)に大きな影響を与えるものが対象となります。
例えば、下記の①②を比較すると、大きな影響を与えるのは②と考えられます。
① 発生頻度が高いが損害規模は小さい ⇒ 輸送、配送時の事故、納品遅延等
② 発生頻度は低いが損害規模は大きい ⇒ 自然災害、火災、政変、感染症
企業がどのようなリスクに備えていく必要があるのか、優先順位をつけて考える必要があります。
BCPは中小企業でも必要か?
災害の多い日本ではBCPの導入は大手企業に限らず、中小企業で導入することも重要なことだと考えられます。BCPは会社が緊急事態を生き抜くための計画であり、従業員の生命と会社の財産を守ることが目的です。この目的に企業の規模は関係ないのではないでしょうか。上記目的の上で、BCPでは下記の5つがポイントとなります。
① 中核事業を特定すること
② 復旧する目標時間を設定すること
③ 取引先と予め協議しておくこと
④ 代替策を用意・検討しておくこと
⑤ 授業員とBCPの方針や内容について共通認識を形成しておくこと
BCPでは経営資源が限定される際に、優先して復旧する事業(中核事業)を絞り込み、その事業を復旧する期日目標(目標復旧時間)を持ち、災害時でも計画通り行動できるように日頃から備えておきます。この中核事業とは会社の事業を継続するにあたって、経営上最優先すべき事業です。
・自社が生き残るために顧客の信用や市場シェアを維持できるのか
・自社の財務状況がどこまで耐えられるか
・企業の社会的責任
これらを経営者が総合的に判断して定めることが重要となります。
中核事業を特定した後は、どのような業務や資源で構成されているかを整理し、事業の継続に障害となりそうな資源を事前に抽出し対策を考えていきます。
緊急時の代替策の用意
実際の緊急時に備えてどのような用意が必要なのでしょうか?
① 企業や事業の継続あるいは復旧の障害となりそうな経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)について、代替策を確保します。代替策の確保が難しい資源については計画的に資金を投入して整備を進める必要があります。
② 緊急時であっても従業員が業務についてくれるよう環境を整え、応援要員も確保します。
一般的な中小企業の場合、大企業と違い余裕をもった従業員の雇用が難しい為、緊急時の要因として従業員の家族や臨時要員や応援要員(OB等)が可能か検討したり、従業員・家族・協力会社との安否確認の方法、徒歩で出社可能な従業員はどの程度いるか、など事前に取りまとめしておくことが必要です。
③ 生産設備、原材料、ライフライン、輸送方法、連絡手段などについて代替策を確保します。下記は一例です。
・自社の重要施設の代替(同業他社へ委託含め)
・生産設備故障時の代替(スペア確保)
・納入業者被災時の代替(在庫確保)
・ライフライン(電力・電話・水道)の代替
・輸送方法(自動車・海運等)の代替
・連絡手段(電話・電子メール)の代替
④ 緊急時の資金の過不足を予測し、損害保険や共済への加入、災害復旧貸し付けの利用などを検討しておきます。
一般の火災保険では地震災害に対しては保険が下りないため、必要に応じて、新規に加入したり、契約内容を見直したりすることが必要になります。火災保険や地震保険はここ数年値上げ傾向なので、予算が許されるのであれば長期契約(5年間・10年間)すると割安で加入する事が可能になります。また緊急時に備えて、売上高1ヵ月分程度の資金は確保しておきましょう。
⑤ 取引先や従業員との情報連絡拠点を確保しておきます。また情報システムやデータのバックアップをとっておきます。
緊急時に取引先等への迅速な連絡は非常に重要ですし、相手からの連絡が受けられるようにしておくことも必要です。また従業員に対して指揮命令する拠点をどこにするのか?ということも事前に確認しておくことも有効です。
連絡手段については固定電話・携帯電話・メールアドレス、最近はSNSなどによる方法も把握していることが望ましいでしょう。
情報のバックアップについては紙媒体であれば複製を作成したり、電子データであれば同時に被災しない場所に保存しておくことが大切です。最近ではクラウドというサービスがあり、クラウドサービスを提供している企業にデータを保存することで情報のバックアップが容易に整備できるようになりました。
従業員と情報共有し、BCPを会社に浸透させるために
会社がBCPの基本方針を策定した後、従業員との情報共有は欠かせません。BCPに関する会社の方針を従業員に示すほか、緊急時にどこに集まるのか?安否確認の方法どうするのか?従業員にどう行動して欲しいか事前に話し合っておきましょう。
従業員とBCPに関して情報共有した後、より会社に浸透させるために、日頃から定期的な訓練や教育を実施しましょう。教育としては防災訓練の講習を受けるほか、自治体や消防署が作っている防災関連ホームページで訓練する方法などがあります。
BCPを策定した中小企業を対象とした融資制度
日本政策金融公庫では「社会環境対応施設整備資金(環境・エネルギー対策貸付)」の融資を通じて、災害の発生へ備えて防災に資する施設等の整備を行う企業へ融資を行う制度があります。融資の条件としては、自ら策定したBCPに基づき、防災に資する施設等の整備を行う企業を対象としており、平中小企業庁が公表した「中小企業BCP策定運用指針」に則り作成したBCPものに限ります。
資金の具体的な使い道は、BCPに基づき防災に資する施設等の整備(改善及び改修を含む)を行うために必要な設備資金および長期運転資金(耐震診断費用を含む)となります。
BCPの導入を検討される際は、このような融資制度を活用するのも有効な手段です。
詳細につきましては日本政策金融公庫のホームページを参照ください。
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/19_syakaikankyotaiou_m_t.html
企業の信頼性向上に
上記のような対策を講じたBCPを導入することで、リスクマネジメントがしっかりした企業との評価につながり、企業価値の向上につながることにもなります。緊急事態に遭遇したときに、取引先や地域社会、従業員とその家族に対して何ができるかを考えていくことが企業の信頼性を高めるのです。いずれ起こるであろうと言われている巨大地震や緊急事態に備え、BCPの導入を考えてみてはいかがでしょうか。