近年、デジタルツインというテクノロジーが注目されています。
デジタルツインは、品質向上やコスト削減に有効とされているのですが、リスクの最小化においても活用されるようになっています。
デジタルツインを活用することで、どのようにリスクを最小化することができるのか、解説します。
事業におけるリスクの最小化
デジタルツインは、現実のものをデジタル空間に再現するテクノロジーです。
例えば、既存のものに新たな機能を加えた時、あるいはまったく新しい機能を生み出した時に、実際稼働してみてどうなるかは、いくらシミュレーションをしても万全とはいえません。
シミュレーションは、設定がある状態で行うものです。
設定から外れた状態では、シミュレーションの結果も役に立ちません。
想定外の事態には、高いリスクがあるのです。
しかし、デジタル空間に再現した場合、まず動かしてみることで様々な事態の想定ができます。
万が一のことがあっても、現実には一切被害が及びません。
デジタル空間でのシミュレーションは、AIによって分析されます。
AIはビッグデータに基づいて分析していくため、現実において起こる可能性が高い内容を知ることができるのです。
デジタルツインを活用することで、完成品の品質を高めることが可能となります。
更に、製品だけではなく製造ラインも含めて検証することができるので、製造に関するリスクも最小化されます。
試作品を何度でも作り直せるというのも、大きなメリットです。
現実では、試作品を作成するだけでかなりのコストがかかるため、慎重に作成する必要があります。
しかし、デジタル空間では試作品を再現して、細かい変更などは簡単にできるため、納得がいくまで試作試験を繰り返すことができます。
細部までチェックしていくことで、故障や不良品、予期せぬトラブルなどの発生リスクが最小限になるのです。
自然災害リスクの最小化
世界中で注目されているのが、自然災害リスクです。
日本でも、東京で連日猛暑日が続き、線状降水帯の発生に伴い豪雨による洪水なども起こっています。
異常気象ともいえる事態が続いていますが、異常気象が起こることでまた別の自然災害が引き起こされるともいわれています。
1970年代と比べて自然災害リスクは高くなり、発生件数や被災者数がおよそ3倍にもなっています。
自然災害リスクが依然と比べて増加しているため、従来のデータによる経験則からの対策は意味をなさなくなりつつあります。
今後必要なのは、正確な予測です。
正確な予測に役立つのが、デジタルツインです。
デジタル空間に、現在の気象情報などのビッグデータから想定した環境を再現し、特定の条件下で何が起こるかを想定できるのです。
例えば、現在の環境を再現して、気温35度、湿度70%の環境が5日継続した場合、10日継続した場合、15日継続した場合など、条件を変えた環境下で発生が想定される自然災害が何か、確認できます。
また、発生する自然災害による被害予測も可能です。
デジタルツインを活用することで、AIと機械学習によって災害科学やデータサイエンティストなどの技術者が精選した、数兆に及ぶデータポイントを統合し、地域社会の仮想モデルを構築できます。
仮想モデルを用いて、気候変動リスクをモデル化してあらかじめリスクを把握しておき、事前に対策を講じることが可能です。
街づくりのシミュレーションゲームが、リアルになったものをイメージしましょう。
都市のビル単位やブロック単位、道路単位で詳細な分析をして、インフラ拠点や港、橋などの建造物も把握できます。
データとAIの分析が優れていれば、自然災害が発生する前に気象災害や大規模災害を数千通りもシミュレーションできるでしょう。
事前のシミュレーションによって、災害に弱い地域、被害が大きくなると予想される重要インフラなどを特定しておくことができます。
あらかじめ知っておけば、対策も練りやすいでしょう。
実際に、様々な企業などがデジタルツインを活用して、自然災害リスクを最小化することを目指しています。
例えば、1995年に阪神大震災の被害にあった神戸市では、理研とドコモとの協力体制によるプロジェクトを始めています。
特に注力しているのが、避難誘導をスムーズに行い、帰宅困難者への対策を講じることです。
建造物や道幅、信号の場所などのデータを市から提供して、理研の富岳というスーパーコンピューターを用いて仮想空間に町並みを再現しています。
町並みに、人の動きのデータを取り込むことで、地震などの災害が起こった場合の避難について予測しているのです。
混雑が起こることが予測される危険な場所を洗い出しておけば、事前に備えることもできるでしょう。
国土交通省も、2020年から「PLATEAU(プラトー)」というプロジェクトを推進しています。
日本の各地の都市を仮想空間上で3D化して、公開していくのです。
作成において、「都市計画基本図」からは道路や建物の場所、「航空測量データ」からは建物の高さや形、「都市計画基礎調査」からは建物の構造や用途、利用状況のそれぞれのデータを取得しています。
データについては、自治体がすでに所有しているため、改めて用意する必要もなく短時間で用意できます。
「都市計画基礎調査」は5年おきに調査をし直すため、データの更新には注意しましょう。
すでに、横浜市や大阪市、熊本市、広島県福山市などはデジタル上で再現されていて、総面積は1万平方キロメートルにもなります。
世界最大規模であり、公開データとして企業や研究機関、自治体によって活用されています。
例えば、福島県では河川反乱のシミュレーション結果を周知していて、浸水時に避難する建物について絞り込んでいます。
また、2019年からデジタルツインに取り組んできた静岡県では、熱海市の土砂災害について活用され、復旧作業をいち早く進めることができました。
今後も、さらに精度が高まり、正確な予測ができるようになるでしょう。
まとめ
デジタルツインは、現実にあるものをデジタル上に再現し、様々な変更を加えたり一定の条件を与えたりするものであり、しっかりと作りこんでから現実にフィードバックすることで、リスクを減らすことができます。
また、自然災害においても都市をデジタル空間に再現することで、実際に起こった場合の被害や避難経路などをあらかじめ想定しておくことで、リスクを最小限に抑えることができるのです。