防災訓練へのメタバース活用

事故・災害リスク

近年、特に注目を集めているメタバースは、エンターテイメントに用いるものと考えていることも多いのですが、実は防災訓練においても注目されているのです。
防災訓練とメタバースは、一見するとあまり防災というイメージはないかも知れません。
防災訓練で、どのようにメタバースを活用するのか解説します。

メタバースとは?

メタバースは、ユーザーが自分の分身となるアバターを通じて経済活動やコミュニケーションを行う、3次元での仮想空間のことをいいます。
今まで、ネット上で他の人のアバターと会話をしたり、協力してゲームをしたりすることはできたのですが、メタバースはさらに現実に近い環境となります。

従来のように会話をすることはもちろん、スポーツや買い物も可能です。
買い物も、ネットショッピングのように画面を見て選ぶだけではなく、実際のアパレルショップに行ったように広げてみたり、試着したりもできます。

将来的には、食事と睡眠以外はほとんどがメタバースで体験できるといわれています。
すでにメタバースサービスはゲーム型やSNS型が登場していて、ヘッドマウントディスプレイを使用することでよりリアルな仮想現実を体験できます。

防災訓練にメタバースをどう活用する?

防災訓練というと、学校で行った避難訓練がまず思い浮かぶでしょう。
学校内で火災が発生したので速やかに校庭へと避難しましょうという放送を聞き、集団で移動したことがあるかと思います。

また、オフィスでも避難訓練をすることがあると思います。
オフィスの場合は、火事や地震など様々なシチュエーションを想定し、主に避難経路を確認するために行われます。

防災訓練は、避難訓練に消火活動などを加えた訓練ですが、実際に避難経路などを把握することも含まれています。
メタバースで防災訓練を行うと、どのようなメリットがあるのでしょうか?

メタバースは、仮想空間です。
仮想空間で何があったとしても、現実に直接影響することはありません。
つまり、実際の災害を起こしたうえで、防災訓練ができるのです。

例えば、火事が起こったという想定での避難訓練では、だらだらと移動して避難が間に合わない、と言われる人もいますが、実際は火が出ていないため、本当に間に合わないかわからないでしょう。

メタバースで防災訓練をした場合は、実際に火を起こすことができます。
また、現実の火事と同じスピードで燃え広がるようにできるので、だらだらと移動する人は火事に巻き込まれてしまい、間に合わないことが実感できるでしょう。

地震の場合も同様で、揺れが起こっている間に移動しようとする人は本当に移動できるか、転倒リスクはないか、ドアがゆがんだ場合はどうやって脱出するかなど、リアルな条件下での防災訓練ができるのです。

メタバースでは、津波も再現できます。
津波には高さや幅、スピードなど様々な条件があるため、小規模な津波での被害や大規模な津波のスピードなども、体験できます。

津波が起こった時は、まだ遠いと思っていても実はかなりのスピードで押し寄せることがあります。
油断していると逃げ遅れてしまうため、小さく、遠く見えても、警戒しなくてはならないのです。

様々な災害の被害を目の当たりにして、たとえ仮想空間であっても防災を意識せざるを得ないでしょう。
災害による危険性を実感して、普段から備えておく意識を持つようにするべきです。

メタバースの防災への活用

メタバースは防災訓練に活用しても役立ちますが、防災そのものにも役立ちます。
メタバースを活用することで、災害に強い都市の設計が可能となります。
現在、異常気象や地震などに強い都市づくりを求められていて、特にデジタル分野でのシミュレーションが活用されているのです。

災害に強い都市を設計しても、実際に建てて実験するわけにはいきません。
かといって、設計だけでは全幅の信頼を得ることはできないでしょう。
メタバースなら、設計を基にしてリアルな建造物を用意できます。

メタバースで、実際に災害が起こった場合をシミュレートしてみて、強度や被害などを把握できます。
結果はフィードバックして、再びデジタルで変更を加えていくことで、試作コストも大きく削減できます。

また、仮想空間内には、リアルのマップを投影することもできます。
現実と同じ町並みをメタバースで再現することで、避難経路をあらかじめ理解しておくことができます。

政府から提供されているハザードマップは、平面的な情報です。
地図を見るのが苦手という人は、わかりにくいかもしれません。
仮想空間で実際に自分の家から移動してみれば、地図を見るよりもわかりやすいでしょう。

実際にメタバースを活用している例として、まず国土交通省があります。
都市計画のDX化を目指して、都市の3Dモデルを整備して活用することを推進するプロジェクトを立ち上げているのです。

都市モデルを3次元で見ることで、今までよりも詳細な情報を得ることができるようになりました。
また、シミュレーションも精度がさらに高くなっています。

保険会社の中には、地震や水害などの自然災害の大規模発生を予測する研究を始めているところもあります。
予測に基づいて安全対策を行い、補償を検討することが目的です。

仮想空間内で自然や気象、人の動きなどのデータと自然災害のデータ、災害予測技術を融合して、災害の発生を予測します。
また、予測に基づいて災害の種類や規模に合わせた災害初動対応策のパターンを用意します。

水害リスクの高い地域で、水害対策訓練をメタバース上で行う企業もあります。
実際の町並みを模倣した中で、アバターで水害の発生前後の行動をシミュレーションして、防災意識の向上などに努めます。

まだ、初期費用の軽減やVR/ARデバイスの性能やUXの向上などが課題として残っていますが、メタバースはかなり広まりつつあります。
今後、さらに身近な技術となり、防災訓練も気軽に行えるようになることが望ましいでしょう。

まとめ

防災訓練をメタバースで行うと、災害をリアルに再現することができるため、単に放送だけで避難するよりもリアリティのある防災訓練ができます。
災害についてシミュレートして、頻発するものとたまに起こるもの、まず起こらないものなど様々なパターンでシミュレートできます。
また、リアルな街並みを再現したうえで、避難場所までの道のりを確認しておくこともできます。